何かが始まる時には理由がある。昨年末のことだ。お世話になっているSさんからメールが届いた。
ヤバイ…。だいぶ前にSさんから「プロ野球カードとMLBカードの歴史がわかるような、メーカー、ブランドを網羅した年表は作れませんか?」と頼まれた。
これは面白そうだ、と資料を集め、まずはMLBのBECKETT「Almanac of Baseball Cards & Collectibles」を目の前に広げ、自分のコレクションを自宅のロフトから出しつつ、メモ書きから始めたら、これがとんでもなかった。
主要なメーカー、ブランドの数は限られるが、中には聞いたこともないブランドはもちろん、インサートやサブセットが記されている。
しかも、である。これを集めていた時、ボクは何をしていたかな、とか、あんなことがあったな、とか、大掃除あるあるパターンで一向に作業が進まない。
そうして、放り出していたら、Sさんから催促が来たのだ。やむを得ず、Sさんに会って話をすることにした。
Sさんの会社に着いて、目の前に出されたのはこのTrading Card Journal (TCJ)の企画書。そこで、ボクの口から出たのが「年表作りは途方もない作業なので、○○○○年のこのブランド、みたいな印象的なカードについてコラムを書かせてもらって、それが蓄積されて、年表になるのはいかがです?」という言い訳だった。
たぶん、Sさんはみえみえだったボクの言い訳を見抜いていたにもかかわらず「それ、やりましょう」とおっしゃってくださった。
というわけで、このコラムの掲載をスタートさせていただくことになったのである。
第1回は1991年のTOPPS「Stadium Club」である。
米国では長い歴史と人気を誇るトレーディングカード。この年は、日本ではお菓子のおまけとして、子供や一部のファンの嗜好品だったトレカの人気が一気に広がることになった。BBM(ベースボールマガジン社)がカードのパック、セットの販売をスタート。都内のホテルでは発売記念の記者会見を大々的に行い、その2日後には、日本で初となるカードショーがお茶の水で開催された。
それでも、米国メーカーのカードを購入できる場所は少なかった。インターネットもそれほど普及していない時代である。吉祥寺、渋谷のスポーツ用品店の片隅に置かれていたパックに高いお金を支払って集めていた。やがて、明大前に伝説の「Jo`s Sports Card」が日本最初のスポーツカード専門店としてオープン。毎週、出勤前に京王線に乗って通った。
その「Joe`s」で広重店長に薦められたのが「Stadium Club」のシリーズ1だった。いつも、購入するカードパックは確か、500円前後だったが、1000円に近い、もしかしたら1000円を越えていた、このパックは黒が基調のラップからして何だかお洒落。しかも、老舗のTOPPSが作った新製品なのだ。広重店長の前で開封してすぐに心を奪われた。
カードの表面が美しい。写真に枠がない。写真のチョイスもそれまでとは違う。躍動感のあるシーンから、撮影用のポーズもこれまでとは異なるのは明らか。おーッ、ノーラン・ライアンがタキシードを着ているぞ!
前述の「Almanac」にはプレミアカードとして発売された、と解説文がある。確かにプレミアム。シリーズ1が300、シリーズ2も300の合計600枚はこの年に始まる「Ultra」や「Pinnacle」とともに、高級版カード時代の代表選手となった。
ドーム型の容器に入った特別セットなども発売され、飛ぶ鳥を落とす勢いだった「Stadium Club」だったが、「カード乱立時代」(表現は正しくないかもしれない)が訪れ、低迷していくトレカ業界に合わせ、2008年限りで制作されなくなった。そりゃ、インサートもいっぱい、作られるようになり、オートグラフも他製品と同様に封入されるようになれば、ただでさえ、高いパックやボックスを購入し続けるのは厳しくなる。購入するファンやコレクターも限定されたのだろう。
それでも、カード人気の復活、購入する年齢層の上昇とともに、2014年に店頭に戻ってきた。昔と変わらない斬新な写真を使い、人気を集めている。
1991年という年とともに、忘れられないブランドである。
cove【ライター】
国内外のベースボールカードやコレクションアイテムを収集し続けて30年。元スポーツ紙ライター。