NBAカードに限った話ではないが、コアな楽しみ方をするファンが大勢いるようなジャンルにはその世界特有の専門用語が数多く存在する。そのジャンルを楽しむうえでそれらの専門用語を全て覚える必要はないが、予め知っておくと長ったらしい説明や単語の羅列を省略出来たりとなにかと便利なことの方が多い。
今回はNBAカード(というよりはカード収集全般)における専門用語を、使用頻度が高いものに絞って紹介していきたい。また専門用語に関連するカードの情報や補足説明も逐次入れていくので、豆知識として覚えていただければ幸いである。
【略語系】
[RC]
ルーキーカード(Rookie Card)の略語。ルーキーカードの詳しい説明は当コラムの第2回『NBAカードの種類』にて触れているのでそちらを参考にして欲しい。
[XRC]
エクステンデッド・ルーキーカード(Extended Rookie Card)の略。日本語に直すと「拡大解釈上のルーキーカード」となり、正式なルーキーカードとしての条件を満たしていないが考えようによってはルーキーカードとして見ることが出来るカードを指す。
XRCの代表的なカードは1984-85年シーズンにスター社から発売されたマイケル・ジョーダンのカード。このカードが入ったスター社のセットはシカゴの会場内やごく限られた場所でしか販売されなかったので、「公的に流通したカードセット」という条件を満たさず正式なルーキーカードとしては認められていない。
[Auto]
サイン(Autograph)の略。NBAカードではサインカードのことを指す時に使われる。AUと略されることもある。
[SP]
ショートプリント(Short Print)の略で通常のカードと比べて印刷枚数が少ないカードを指す。これの逆で通常よりも多く印刷されたカードを指すダブルプリント(Double Print、略称はDP)という言葉もあるが、近年ではあまり使われない。
カードは大きなシートを裁断して作られるが、例えば1枚で30枚分のカードを作ることが可能なシートを用いて全25枚のカードセットを印刷すると5枚分の空きスペースが出来る。メーカーはその部分を無駄にしないために5枚のカードを余分に印刷し、その部分に割り当てられたカードは通常カードの倍の枚数刷られることになる。DPのカードが存在するのはこういう理由からである。近年はこういった無駄な部分が出ないようセットの枚数が管理されているのでDPはほぼ存在しない。
SPはメーカーがレア度を上げるため意図的に生産を絞っていたりするので現在でも普通に存在する。またサインカードなどは選手の都合がつかずにごく少量しかサインが書かれない場合もあり、それらは市場にあまりに出回らないため発行から数ヶ月経ってようやくSPだと判明するケースも多い。
[BV]
ブックバリュー(Book value)の略。一般的にはカードのプライスガイドである雑誌『ベケット』に掲載されているカードの価格のことを指す。「BV200」と書かれていれば、「このカードはベケットで200ドルの値をつけている」という意味となる。
【各種専門用語】
[コモン・セミスター・アンリステッドスター]
スター選手以外のNBA選手をランク分けする時に使われる語句。ランクの順番としては「コモン(普通)<セミスター(スターまではいかない好選手)<アンリステッドスター(名前が掲載されていないスター選手)」となり、この中ではアンリステッドスターが最も高いランクとなる。
何のためにランク分けするのかと言うと、前述のカードのプライスガイド『ベケット』においてカードの値段が名前つきで掲載されているのは誌面のスペースが限られていることもあってスター選手のみとされている。しかし名前が載らない選手の中にも人気や値段の差は確実に存在するので、これらの選手を3段階でランク分けすることで、選手のレベルに適したカードの値段をつけることを可能にしている。
[エラー、コレクテッド、アンコレクテッドエラー]
選手の表記や使用されている写真等、何か間違っている箇所があるのがエラー(Error)カード。そのエラーを修正しカードを発行し直したものがコレクテッド(Corrected)カード。そして修正版が存在せずエラーカードのみが市場に出回ってしまっているのがアンコレクテッドエラー(Uncorrected Error、修正されなかったエラー)カードで、略語はそれぞれ「ERR」「COR」「UER」となる。
エラーカードで有名なのは1992-93 Upper Deckに封入されたマイケル・ジョーダンのスラムダンクチャンピオンカード。エラー版は間違った優勝年度が箔押しされており、急遽修正版(コレクテッドカード)と差し替えられた。エラー版は初期生産分のみのため発行数が少なく修正版よりも価値が高い。
アンコレクテッドエラーカードで有名なのは1988-89 Fleerに封入されたスコッティ・ピッペンのルーキーカードだろう。カード裏面のピッペンの名前が「Pippin(正しくはPippen)」になっており、修正版も発行されなかったので彼のルーキーカードは名前の綴りが間違ったものしか存在しない。
[リデンプションカード、エクスチェンジカード]
リデンプション(Redemption、償還・救済という意味)カードは本来パックに封入される予定だったカードが何らかの理由で間に合わず、その代わりとして封入された交換券のことを指す。またエクスチェンジ(Exchange、交換という意味)カードは何かの代替品ではなく、初めから交換することが目的のカードで当たり券としての意味合いが強い。
これらのカードには交換期限があり、期限が切れたカードのことをエクスパイヤード(Expired、期限切れの)カードと呼ぶ。
[ミント]
「ミント(MINT)」は完璧なコンディションのカードを指す言葉である。ミントを最高レベルとし、「ニアミント-ミント(NRMT-MT)>ニアミント(NRMT)>エクセレントミント(EXMT)>エクセレント(EX)>ベリーグッド(VG)>グッド(G)>フェア(F)>プアー(P)」の順番でコンディションのランクがつけられる。
一般的なコンディションの評価は上記の通りなのだが、カードのグレーディング(採点式の鑑定)を専門とする会社のサービスではミントよりも更に上のランク、「ジェムミント(GEM-MT)」や「プリスティン(PRISTINE)」が存在する。
【専門用語を理解しワンランク上のコレクターに】
今回紹介した略語、専門用語はコレクター間やオークションでの表記にも特によく使われるので、これらを知っていればそれがどのようなカードなのか、どういった状態にあるのかをパッと把握出来るようになる。略語など全く知らなかった人であっても、今なら「レブロンのRC AUのBVってどのくらいかなあ」といった言葉の意味が理解出来るのではないだろうか。
専門用語と言えども、そもそもは趣味の世界の話で堅苦しく考える必要はない。好きなチームや選手のカードと絡めて楽しみながら覚えていただければ幸いである。
soma【ライター/イラストレーター】
長年カード関連の企画・出版物に記事を寄稿しているライターであると共に自身も90年代初頭から四半世紀に渡りカード収集を続けているカードコレクター