-最初の遊戯王トレーディングカードセット
アンソニー・ゲッツィ著
“過去を懐かしむことで至福感を得るように、遊戯王カードのコレクター達にとって北米で最初に発売された「青眼の白龍伝説」を収集することに勝るものはありません。”
遊戯王の著名コレクターであるイアン・ダグラス氏は、2002年に発売された「青眼の白龍伝説(LOB)」セットについて上記の様に表現しています。
ダグラス氏は遊戯王カードコレクターの中で最も見識が深い人物の一人であり、彼が保有する膨大なコレクションを「The Old-School Expert(オールド・スクール・エクスパート)」という名でユーチューブでも紹介してします。
「青眼の白龍伝説は、遊戯王コレクター市場の基盤を形成しています」と、ダグラス氏。「このセットは、最初に発売されたトレーディングカードゲーム(TCG)として先導的な役割を果たしています。しかし、単純に最初のセットという言葉だけでは片付けられません。青眼の白龍伝説は、TVアニメで最も愛されたモンスターである「武藤遊戯のブラック・マジシャン」や「城之内克也の真紅眼の黒竜」、「海馬瀬人の青眼の白龍」などのレアカードが含まれています。
ユーチューブやインスタグラムで「Vintage Yugioh(ヴィンテージ・ユウギオウ)」という名で活動しているルイス・ニュージェント氏も、この代表的なセットについて同様の感情を抱いています。「青眼の白龍伝説は、それ以外の全ての遊戯王カードセットの原点です」と、ニュージェント氏。「もしもこの成功がなかったら、最初の2~3セット以降はほとんど価値のないものになっていたことでしょう。」
遊戯王発売初期に実際にカードで遊んでいた人達にとって、このセットはプレイヤーを美しさで魅了するだけでなく、ゲーム性にもすごく富んだカードが多く含まれていました。そのいくつかは、カードの種類に関わらず全てのデッキに使用されることが多く、ゲームの重要なアイテムとして位置づけられています。
ダグラス氏は、「青眼の白龍伝説は、デュエルに不可欠なサンダー・ボルトや死者蘇生、強欲な壺などの多くのカードや、5枚揃った瞬間に勝利が確定する封印されしエクゾディアを世に送り出したセットなので、大会に参加していたプレイヤー達にとっても思い入れのあるものでしょう」と、述べています。
このセットのカードは黒枠で縁どられており、属性、召喚に必要なリリース条件を決めるレベル(星の数で表示)、カードによっては「1st Edition」の表記、テキストボックス、攻撃力・守備力、カード番号、そして「1st Edition」では金色、それ以外では銀色の「アヌビスの目」が印刷されています。
遊戯王プレイヤーの間では、最初から11番目までのTCGセットが初期シリーズとして分類され、青眼の白龍伝説はその中の最初のセットになります。TCGセットに関することでは、青眼の白龍伝説に含まれるシークレットレアやウルトラレア、そしてスーパーレアの枚数がその後の各セットに含まれるレアカードの枚数の基準になっています。青眼の白龍伝説から11番目のエンシェント・サンクチュアリまでは、レアカードとノーマルカードの構成枚数はセットごとに異なりますが、シークレットレア2枚(各セットの最初と最後)、ウルトラレア10枚、スーパーレア10枚というのは統一されています。
初期シリーズのセットでは、ボックスごとにウルトラレア2枚とスーパーレア4枚が含まれています。他のTCGセットとの主な違いは、特定のノーマルカードに「ショートプリント(SP)」や「スーパーショートプリント(SSP)」といったノーマルレア仕様が施されていることです。シークレットレアなどと同様に、これらのカードの封入確率は公表されていません。確信はありませんが、大半のコレクターはボックスごとに1枚か2枚のSP又はSSPが封入されているのではないかと信じているようです。これらのカードは、ホロカードに匹敵するほど手に入れるのが困難とされています。最後に、シークレットレアは2~3ボックスに1枚入っているかいないかぐらいが通常の確立です。大量のボックス買いをするコレクターにとっては、この確率は必ずしも当てはまりません。少量のボックスからホロカードが出現することはほとんどなく、その一方で、「God Boxes」と称される神がかったボックスでは各パックに1枚のホロカードが入っていることもあります。
遊戯王カードを発売する親会社はコナミで、正式社名は「コナミホールディングス株式会社」です。1999年コナミによって発売が開始され、2002年3月に北米で青眼の白龍伝説が登場するまではオフィシャルカードゲーム(OCG)は日本語版のみ入手可能でした。TCGセットの登場をきっかけに人気が加速し、遊戯王は2009年のギネス世界記録おいて「世界で最も売れているトレーディングカードゲーム」として認定されるまでに至ります。
青眼の白龍伝説(LOB)は最初のTCGセットですが、その内容はそれ以前に発売された二つのOCGセットから成り立っています。青眼の白龍伝説を構成するそのセットとは、2000年に発売された「青眼の白龍伝説(LB)」と「幻の召喚神(PG)」です。コナミは青眼の白龍伝説(LOB)の構成内容を決める際、最初のTCGセットを作るためにこの二つのセットを統合し、いくつかのレアリティに変更を加えました。
TCGセットのカードに対して、OCGセットのカードはテキストボックスがとても小さく、表面も裏面もグロス加工になっているという点で大きく異なっています。青眼の白龍伝説(LOB)セットの一部にはこのグロス加工が見受けられ、また別の一部では「Wavy(波状)」と遊戯王コミュニティ内で呼ばれている用紙が使用されたカードも存在します。これは必ずしも製造者が意図的に作ったバリエーションではありませんが、今日のコレクター達の間ではバリエーションの一つとして認められるようになっています。
コレクター達の仮説によると、「Wavy(波状)」カードは1st Edition全発行枚数の3分の1程度しかないと思われており、熱狂的なコレクターの間ではこれらのカードにプレミアが付くことも頻繁にあります。青眼の白龍伝説1st Editionでは3種類のボックスセットが発売され、ボックスごとに異なるシークレットレアカードが封入されていました。ボックス特典のシークレットレアとして、その内のたった1種類だけに「Wavy(波状)」のトライホーン・ドラゴンが含まれており、他の2種類にはグロス加工の竜騎士ガイアとトライホーン・ドラゴンがそれぞれ含まれていました。
両方のシークレットレアカードをPSAの鑑定分布データで考察してみると、竜騎士ガイアに比べて約2倍のトライホーン・ドラゴンが鑑定に出されています。多くのコレクター達は、この指標は竜騎士ガイアがトライホーン・ドラゴンの半分しか製造されていないことを端的に表していると捉えています。また、少なからずの人達にとって、この数値はグロス用紙に印刷された両方のシークレットレアカードが現存していることと、その一方で別の印刷時には異なった印刷用紙が使用され、トライホーン・ドラゴンのシークレットレアカードだけが印刷された可能性があること実証しています。そして、コレクター達はグロス加工印刷が先だったか後だったかについて未だに言い争っています。
「このセットの品質管理には問題があったと思われます」と、ニュージェント氏。「このセットの印刷には複数の種類の印刷用紙が使用され、そのために「Wavy(波状)」フォイルと「グロス加工」フォイルのバージョンが発生してしまいました。竜騎士ガイアがグロス用紙のみに印刷された理由は不明ですが・・・。両方のバージョン共にセンタリングに問題があり、多くのカードにインクの汚れやスジ、角張った四方の角、袋に封入されていることによる側面の白かけなどが見受けられます。また、同じカードでも全体の色味がすごく薄いものからすごく濃いものまで幅があります。」
その結果として、袋から取り出した多くのカードがPSAのグレード10(GEM-MT)には及びませんが、コレクターの人達がこれらのカードの収集や鑑定を思いとどまることはありません。この分野において、青眼の白龍伝説の鑑定枚数は上位に位置し、カード別の鑑定枚数でも上位のいくつかを占めています。状態が完璧ではないカードに対しても人気があるということは市場の底堅さを示しており、グレード10以下の例を挙げると、スーパーレアカードの多くはグレード9の場合でも100ドルを優に超える値段で売れています。
これらのカードの人気が高まったことを背景に、残念なことに近年では大量の偽造品が作られています。主に香港から出回っており、小さな印字で「1st Edition」と書かれているのが特徴です。真贋を見分ける最も簡単な方法としては、箱の裏面に緑色で印刷された「Upper Deck Entertainment」のロゴを見ることです。ロゴの文字が拡大しても読み取れない場合、その箱は本物ではありません。
この様な懸念材料があるものの、ダグラス氏はこれらのカードの市場がますます拡大していると捉えています。「現時点までは、青眼の白龍伝説がその後の遊戯王拡張パックの市場トレンドを決めており、今後も同様の傾向が続くと予想されます」と、ダグラス氏。
近年の価格上昇は突出しており、PSAグレード10の青眼の白龍の場合、2018年12月時に比べて7倍以上の5,000ドルを突破し、「Wavy(波状)」のカードはそれを上回る価格で取り引きされています。この様な価格高騰は、長年の遊戯王コレクター達も経験したことはありません。ダグラス氏は、「最初にPSAグレード10の青眼の白龍が売られたのを目にしたのは2015年3月で、価格は999ドルでした。確か、この値段がこれらのカードの最低入札価格だったはずです」と、述べています。
このセットの中で最も人気のある5枚のカードは、青眼の白龍、真紅眼の黒竜、竜騎士ガイア、炎の剣士、そして封印されしエクゾディアです。これらのカードが、該当するそれぞれのレアリティを代表するものとなっています。青眼の白龍がセット全般を代表するカードである一方、真紅眼の黒竜が差ほど違いない価格帯(2,800~4,000ドル)で取り引きされることも稀ではありません。竜騎士ガイアは、トライホーン・ドラゴンの発行枚数の約30%程度しかないため、シークレットレアを代表するカードとなっています。もしも売られているものがあるとすれば、1,500から2,200ドルの間になると思われます。スーパーレアを代表するカードは間違いなく炎の剣士で、取引価格は600から900ドルの間、もしくはその他のスーパーレアカードの2倍となっています。
封印されしエクゾディアはTCGの中でも特殊なカードで、四肢のカード(左右の腕と左右の脚)と合わせて5枚揃うとその時点で勝利が確定します。この5枚から構成される封印されしエクゾディアは、青眼の白龍伝説に含まれているウルトラレアカードの半数を占めており、アニメの中でも最も強力なキャラクターの一つとして捉えられています。5枚のカードそれぞれがウルトラレアカードであり、エクゾディアを構成するパーツの役割を果たしています。通常、ボックスセットからは2枚のウルトラレアカードしか期待できないので、仮に3箱を購入したとしてもエクゾディアの5枚が揃うことはまずありません。
PSAグレード10のエクゾディア全5種セットの予想数は15~20の間で、数値上可能なセット数の約6割にあたります。最も枚数が少ないのは常に「封印されし者の左腕」で、PSAグレード10は33枚しか存在していません。多くのコレクターはエクゾディアのパーツを保有していますが、PSAグレード10の全5種セットを保有しているとなれば小さな偉業に匹敵します。全5種セットの場合4,500~6,500ドルほどの価値があると思われ、価値はカード用紙の種類によっても左右されます。
ボックスセットに関しても同様のことが言えます。「遊戯王カードの中でこれ以上に人気のあるものは見当たりません」と、ニュージェント氏。「シングルカードの価格高騰が未開封パックや拡張ボックスの価格上昇をもたらしています。これらのカードの価値の上昇は、まさに天井知らずです」。この見解に疑う余地はありません。2010年頃までは青眼の白龍伝説のボックスセットは150ドル程度で購入が可能でした。2013年頃までにその価格は550ドルまで上昇し、2016年には1,300ドルまで跳ね上がっています。最近、個人取引において文字サイズが小さい方のボックスセット(箱に印刷された1st Editionの文字サイズが小さい方を指す)が8,500ドルの値を付け、文字サイズが大きい方のボックスセットに比べて3,000ドルの差を付けています。オークションサイトeBayでの取引ではさらに高値を付けており、多くの業者は将来このボックスセットが10,000ドル以下に下がることはないと思っています。
最も興味のある趣味がどの分野であっても、興味がある分野の最初のセットにはコレクターの誰もが相応の敬意を持っているはずです。遊戯王のプレイヤーやコレクター達にとって、青眼の白龍伝説がまさにそれにあたります。遊戯王トレーディングカードゲームの幕開けを告げたセットであるとともに、プレイヤーとコレクターの両方にとって魅力的なカードの数々を生み出したセットなのです。
2002年発売の青眼の白龍伝説セットについての詳しい情報はこちらから。
https://www.psacard.com/cardfacts/non-sports-cards/2002-yu-gi-oh-legend-blue-eyes-white-dragon/32427
著者:アンソニー・ゲッツィ
遊戯王のエキスパート、コレクター、PSAセットレジストリのメンバー。PSA会員誌SMRに記事を提供。
本記事内で引用された鑑定分布データ及びセットレジストリの順位は2019年5月現在のデータです。
英語の記事(原文)はこちらをクリック。
https://www.psacard.com/articles/articleview/9908/psa-set-registry-collecting-2002-yu-gi-oh-legend-blue-eyes-white-dragon-first-trading-card-game