【グレーディングとは】
今、トレーディングカードの世界では「グレーディング」が静かなブームとなっている。
トレーディングカードはその趣味の性質上、カードの状態(コンディション)によって大きく価値が変わる。傷ひとつ無い完全美品のカードと、折れたり汚れたりしているカードとでは当然前者の方が価値は高くなる。そういったカードの状態を一定の基準によって鑑定し、判定・点数化した後に専用のケースに収納するサービスがグレーディングである。
グレーディングは30年ほど前から存在していたサービスだが、数年前から海外のNBAカードをはじめとするスポーツカード市場で流行しはじめ、やがてそれが『マジック・ザ・ギャザリング』等のトレーディングカードゲームにも飛び火して世界的なムーブメントとなった。今やそのブームは海を渡って日本国内にも広がりつつあり、コアなコレクター達の大きな関心事となっている。
【グレーディング誕生当時のカード事情】
1991年にPSA(※注1)によって始められたグレーディングのサービスは、超高額カードの売買やオークション等によく用いられていたため知名度は高かったが、一般的なコレクターがそのサービスを利用しようという状況にはなかなかならなかった。
その理由としては、当時のコレクターの大半は現役選手のカードを集めていたため、「高額なビンテージカードを入れるためのもの」という印象があるグレーディングの必要性をそこまで強くは感じていなかった。またカードが専用ケースに密封されることでそのカードに直に触れなくなることもコレクター心理にはマイナスに働いた。
【グレーディング需要の高まり】
しかし2010年代に入るとその状況が徐々に変わり始めてくる。1990年代後期のカードブームの時期に発行された高クオリティのインサートカード、パラレルカードを中心にして、過去に発行されたカードの再評価が始まったからだ。
NBAカードでひとつ例を挙げると、1997-98年シーズンに発行されたブランド『メタル・ユニバース』の各選手100枚限定のパラレルセット『プレシャスメタル・ジェムズ(以下PMG)』は、発売当時コモンカード(スター選手ではない普通の選手のカード)で12ドルだったのが、現在は最低でも200ドルからのスタートになっている。
当時のナンバーワンルーキーであるティム・ダンカン(元スパーズ)のPMGは発行当初は200ドルだったが、現在ではその40倍の8000ドルになっており、史上最高の選手と称されるマイケル・ジョーダン(元ブルズ等)に至っては、当時750ドルだったものが現在では4万ドル(約430万円強)と急激な上昇を見せている(※注2)。
他のカードに関してもPMGほどではないが一様に値上がりの傾向にあり、高レアインサートになるほどその度合いが強くなっている。1990年代に発行されていた現役選手のカードは、10~20年の年月を経て「高額なビンテージカード」になったというわけだ。
このように過去のカードが高騰した結果、1990年代に熱心にカードを集めていたコレクター達は今まで気に留めていなかったグレーディングのサービスを真剣に検討するようになった。100円や200円のカードならともかく、1枚が数万円、数十万円のレベルになると、まず「そのカードが本物であること」、そして「期待した通りの状態(コンディション)であること」の証明が求められるからだ。
そして自分がいくら「このカードは本物です」「傷ひとつない美品です」と言ったところで、自分以外の他人にとってみればその言葉が本当かどうかは分からない。しかし、そのカードが専門業者の一定基準の元で鑑定されたものであれば、その言葉の信頼性は格段に高くなる。高額になってしまったカードの価値を証明したいコレクターにとってグレーディングはまさにうってつけのサービスであった。
【グレーディングの行程】
それではここでグレーディングがどのような手順で行われるのか簡単に説明していきたい。グレーディングの行程は大まかに分けると「鑑定」「(状態)判定」「ナンバリング・収納」となる。
グレーディングの専門業者に送られたカードは、まずそのカードが本物であるかどうかを鑑定される。そのうえで、カードの状態をよく見せるため色を塗り足したり、カードの外枠部分をキレイにするために新たに裁断し直したり(トリミング)していないか等、本来あるべき状態から手が加えられていないかどうかを確かめる。
次にカードの状態を判定する。カードの状態を表す語句は「ミント」「ニアミント・ミント」「エクセレント」「グッド」「フェア」「プアー」等があり、最上級を表す「ジェム・ミント」を含め大体10段階で評価されることが多い(会社によっては100点満点表記のところもあり)。
カードの状態を判定するうえで主に考慮されるのは「センタリング(カードがズレなく中心に印刷されているか)」「コーナー(カード四隅の角の部分)」「エッジ(カードの外枠部分)」「サーフィス(カードの表面)」の4点。つまり画像が真ん中に印刷され、角もフチも折れたり歪んでいたりしてなく、表面に傷がなくキレイな状態のカードほど高く評価される。
そうやって鑑定、判定されたカードは、取得した点数と個別の管理番号が記載されたラベルと共に専用のケースに収納される。カードはケースに完全密封されるため、外気や人の手に触れることによる劣化から完全に隔離された状態で保存される。
トレーディングカードの鑑定を行っている専門業者は世界にいくつか存在するが、その中でも特に有名なのが、グレーディングの元祖的存在『PSA』と、カードのプライスガイドを発行しているベケット社が運営している『BGS(ベケット・グレーディング・サービス)』の2社だ。この2社はその鑑定結果に特に高い信頼が置かれ、海外のオークション等で高価なカードが取引される際にはPSAかBGSで鑑定されていることが多い。
【今後の展望】
2020年においても現在進行形でグレーディングの需要は高まり続けており、しばらくはこの傾向が続くと思われる。
今ネットオークション等では、高額カードを取引する際にはグレーディング済みの物が以前よりも更に求められるようになってきており、グレーディング済みの物はミント以上のコンディションであれば市場価格より高い値段で落札される傾向にある。
またその一方でグレーディングをしていないカードは取引を敬遠されるケースも増えてきた。グレーディングが一般的になってきたことにより、「何かグレーディング出来ない理由(偽物、大きな傷がある等)があるのでは?」と捉える人が多くなってきたのかも知れない。
そして1990年代のカードブームに収集をしていたコレクター達も気がつけば(当時学生だとしても)大体が40歳以上になっており、そのうちの何割かはそろそろコレクションを手放すことを考えはじめる頃合いになってきた。他人にコレクションを譲り渡すためにはグレーディング済のカードの方がより信頼されるということで、貴重なカードを持つコレクターほどグレーディングを検討するようになってきている。
【グレーディングとのつき合い方】
グレーディングが今ブームになりつつある背景には、一昔前の「お宝ブーム」のような金銭的な価値に惹かれてという部分もあるのだろう。近年では「鑑定済のコンディションの良いカードを持っておけば将来価値が上がる」といった投資・投機的な理由でカードを購入するケースも見られるようになってきた。
しかし、グレーディングはカードの価値を高める方法のひとつではあるが、本来は自分のコレクションをより良く保存し管理するためのもの。グレーディングによって専用のケースに入れられることで長年愛情を注いできたカードを今まで以上に安全に保存出来るようになるし、また個別の管理番号をつけられることで、そのカードが(たとえ手放したとしても)確かに自分の手元にあった1枚だと確認出来る。
現在はまさにグレーディングのバブル景気の様相を呈してきているが、この状況に惑わされることなく、グレーディングというサービスをしっかりと理解したうえで利用して欲しい。グレーディングと上手くつき合うことが出来れば、カード収集の趣味は今よりもっと幅広く、充実したものになるだろう。
※何万枚と刷られているカードでも、この管理番号がつけられたカードは世界でこの1枚だけ。カードの市場価格に関係なく愛着がある1枚を鑑定に出す例も最近は増えてきている。
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注1:PSA(プロフェッショナル・スポーツ・オーセンティケイター)は、PCGS(プロフェッショナル・コイン・グレーディングサービス)というコインの鑑定サービスを展開していたコレクターズユニバース社が、カードを鑑定するために当時新たに立ち上げたサービスである。
注2:このパラレルセットの10枚限定版『プレシャスメタル・ジェムズ・グリーン』のジョーダンのカードは、2019年2月に海外のオークションサイト「eBay」で35万100ドル(約3800万円)で落札されている。この件に関しては、別の記事で取り上げているので興味がある方は読んでみて欲しい。
soma【ライター/イラストレーター】
長年カード関連の企画・出版物に記事を寄稿しているライターであると共に自身も90年代初頭から四半世紀に渡りカード収集を続けているカードコレクター