新型コロナの影響で遅れていたNPBの開幕がようやく、実現した。2か月の間だけでも様々なドラマティックな出来事が多く起こり、待ちに待ったファンやカードコレクターは「プロ野球がある日常」に感謝しているのではないだろうか。その中でも、堂林翔太内野手(広島)の活躍には目を見張るものがある。7月終了時でリーグ打率トップの.358をマーク。6年ぶりの開幕スタメンで、同17日には打率は最高.447まで達し、24日までは4割をキープ。その復活劇の理由については各メディアが報じているので触れないが、トレーディングカード的にもうれしい「事件」となった。
堂林は中京大中京高3年時に、「4番・エース兼外野手」として出場した2009年夏の甲子園で全国優勝。投打にわたる活躍にイケメンぶりもあり人気者になった。その年のドラフトで2巡目指名を受けて広島に入団した。打撃センスを買われ、野手に本格的に転向し、3年目の12年に開幕から一軍登録。故郷にあるナゴヤドームでの中日戦で初安打、思い出の甲子園での阪神戦で初本塁打を放つなど華々しいデビューでブレーク。「プリンス」と呼ばれるようにまでなり、翌年は背番号も「13」から、野村謙二郎監督が現役時代に着けていた「7」を継承した。だが、14年から故障もあり成績はジリ貧となり、昨季は自身ワーストの28試合の出場に終わった。
過去10年間の大手オークションの落札額を記録している「オークファンによると2010年版のBBM「ルーキープレミアム」の25枚限定の縦型サインカードがヤフオクで、同年11月に50,029円で落札された。ブレークした12年、背番号が「7」に変わった13年には、ルーキーカードのサインカードを探すコレクターも増え、30,000円以上で取引されたほか、安定して20,000円以上の値がついた。成績が下がることと比例して、カードの取引相場も下がったものの、今年の復活劇で10,000円前後まで上がってきた。
MLBのスーパースター、マイク・トラウト外野手のルーキーサインカードが1億円で落札された際にも書いたのだが、トレカの取引相場が上がるには2つのパターンがある。ひとつはデビュー前から注目される「話題先行型」。佐々木朗希投手(千葉ロッテ)や、2020年版TOPPS社の「ボウマン」のハスソン・ドミンゲス外野手(ヤンキース)がそれにあたる。もうひとつがトラウトや、日本なら鈴木誠也外野手(広島東洋)のように活躍して脚光を浴び、一気に初期のトレカの価値を見直される「再評価型」だ。だが、堂林はそのふたつのパターンが融合したルーキーとしても騒がれ、再ブレークでさらに価値が見直された選手と言える。
日本国内でも有数の堂林カードのコレクターとして知られるT氏も堂林の再ブレークを喜んでいるひとりだろう。T氏はかつて、堂林のジャージナンバーのルーキーサインカードを手に入れるため、2003年BBMの落合博満の直筆サインとNBAのスーパースター、レブロン・ジェームスのUPPER DECKのルーキーサインカードの2枚を放出した経験がある。当時は落合のカードが70,000円、レブロンのカードが60,000円で取引されており、2枚併せて130,000円の価値があった。だが、現在は落合のカードが300,000円、レブロンが400,000円で合計700,000円まで跳ね上がっている。
「カードの相場はそういうものですから、堂林が再ブレークしていなくても後悔はなかったですね」とT氏はクールに語る。ここ数年はとくに、投機目的のカード収集が増えている。騒がれるルーキーのカードを引き当てるギャンブル化の傾向もある。「それもトレカの楽しみであることも否定しません。それでも、好きな選手、応援したい選手のカードを集めるコレクターもまだまだ、多いと思います。私は堂林のカードの価値が上がるのはうれしいですが、それよりも純粋に彼の復活がうれしいのです。堂林が落合のように三冠王になったり、レブロンのように伝説になったりしなくても、堂林を応援している自分が誇らしいです」と笑った。
開幕当初の勢いは落ちてきたが、8月13日現在、堂林はリーグ6位の打率.315、同8位タイの8本塁打、同11位タイの23打点をキープ。今ひとつ、成績が上がらないカープにあって、貴重なポイントゲッターとして存在感を見せている。プロ11年目、28歳での再ブレーク、このまま、シーズンを乗り切れば、カムバック賞も夢ではない。もし、トレカ業界にもカムバック賞があるのなら、T氏と同じように地道に応援するカードを集めるコレクターのためにも、堂林のカードにカムバック賞を贈りたい。
cove【ライター】
国内外のベースボールカードやコレクションアイテムを収集し続けて30年。元スポーツ紙ライター。