トレカ市場的2020 NBAプレイオフの展望【NBAカードニューストピックス】

2020年7月31日(日本時間)、3月上旬の試合を最後に打ち切られていたNBAの2019-20年シーズンが遂に再開された。
このシーズン再開の対象となるチームは、3月の時点でプレイオフの可能性を残していた東西カンファレンスの上位22チームに限られ、それらのチームが残り8試合を戦い最終的な順位を決め、そして勝ち残ったチームが来るべきプレイオフへと進出出来る仕組みだ。
今回はNBAのシーズン再開、そしてプレイオフにおける注目選手について話していきたい。

【新時代のNBAの顔となるのは誰か?】

・レブロン・ジェームズ(レイカーズ)

現時点でのNBAの主役はやはりレブロンだ。黒人差別に対する活動や、コービー・ブライアントの事故死(レブロンが彼の通算得点記録を更新した翌日の出来事だった)の件もあり、2020年に入ってからの彼はまるで映画の主人公のような道を歩んできている。
彼が所属するレイカーズは西カンファレンスの1位、リーグ全体で2位の好位置につけており、現実的にも十分優勝を狙える位置にいる。おそらくではあるが今季に関してはかなり多くのNBAファン(主に自分の応援するチームがプレイオフに絡んでいないファン)がレイカーズとレブロンに優勝してもらいたいと思っているのではないだろうか。

ここ数ヶ月の彼のカードの高騰はそんなNBAファンの期待感を反映しているようでもある。今年7月にNBAカード史上最高額の184万5,000ドル(約2億円弱)で落札された『2003-04 Exquisite Collection 』の23枚限定ルーキーパッチサインカードを筆頭に、彼のサイン入りルーキーカードの中では安価な部類であった『SPx』でも15,000ドル(約160万円)の市場価格を記録するなど異次元の領域に入ってきた。もし今季レイカーズが優勝するならば、レブロンはマイケル・ジョーダン(元ブルズ)と共に「史上最高の選手」として並び称されるようになるだろう。それはNBAカードにおいても同様である。

・ヤニス・アデトクンボ(バックス)

純粋にコートの中の現象だけに目をやると「今季はヤニスのシーズンだ」と断言出来る。彼が率いるミルウォーキー・バックスはシーズン中断時点で53勝12敗とリーグトップの勝率を誇り、個人としても1試合平均29.6得点、13.7リバウンド(いずれもリーグ3位)を挙げるなど今季のMVP最有力候補だ。またMVPの他にも最優秀守備選手賞の受賞も噂されており、そうなると彼は主要な個人賞のほとんどを手に入れることになる。
しかし、そんなヤニスがまだ手に入れたことがない栄誉が2つある。それは優勝とNBAファイナルMVPの受賞だ。もしこのシーズンで彼がその2つを手に入れることが出来たならば、NBAはレブロン時代からヤニス時代へと大きな転換を迎えることだろう。

現在ヤニスの主要なルーキーカードは軒並み高値をつけているが、それでも優勝経験が無いためかレブロンの域にはまだ達していない。このプレイオフでその壁を破れるのかどうか、注目したいところだ。

・ジェームズ・ハーデン(ロケッツ)、ルカ・ドンチッチ(マブス)、クリス・ポール(サンダー)、デミアン・リラード(ブレイザーズ)等

今季優勝の大本命はレイカーズとバックスだが、NBAは筋書きのないドラマである。ここまでの成績がどうであれ最終的には優勝したチーム、プレイヤーが評価される。

ハーデンは一昨年度のMVPで、彼が率いるロケッツは昨年一昨年と優勝候補と見られながらもファイナルまで行けずに敗退を繰り返している。彼は今季も3人いるMVPの候補(他はレブロン、ヤニス)に挙がっており、選手としてはまさに今が最高潮。悲願の優勝を目指している。

ドンチッチは驚異的な2年目のシーズンを過ごした。平均得点28.8得点、8.8アシスト、9.4リバウンドはMVP候補に挙げられてもおかしくないほどの成績で、主要スタッツではレブロンの2年目の成績(27.2得点、7.2アシスト、7.4リバウンド)を上回っている。チームとしては優勝を狙うにしては少々力不足の感があるが、この神童がいる限り何が起こってもおかしくはない。

クリス・ポールは昨季優勝候補だったロケッツから若手選手を中心に再建をしていたサンダーへと放出され、もう引退まで優勝を狙えるチームではプレイ出来ないかと思われていた。しかし持ち前のチームを勝たせる力を発揮し、再建まで我慢の年と思われていたサンダーはプレイオフへ進出。奇しくも彼を放出したロケッツとの対戦となった。この対戦はプレイオフ1回戦で最大の目玉である。

リラードはシーズン再開後、平均37.6得点、最後の3試合においては平均51.3得点を記録し、バブル(NBAがディズニーワールドに作った施設の呼称。シーズン再開後のリーグ戦のことを指す)におけるMVPに選出された。グリズリーズとのプレイオフ進出最後の一枠を争うプレイインゲームにも勝利し、今NBAで一番乗りに乗っている選手だと言える。

 

以上に挙げた選手はこれまでの活躍で十分に評価されているが、このプレイオフで更に躍進する可能性がある。いずれも優勝を経験していない選手なので、もし優勝した場合彼らのカードの人気もまた一段と跳ね上がることだろう。

【バブル景気到来?】

・T.J.ウォレン(ペイサーズ)、マイケル・ポーターJr.(ナゲッツ)

通常のシーズンでは特に注目されていなかったが、バブルの中でシーズンが再開されてから急激に頭角を現した選手もいる。

ペイサーズのウォレンは良い選手ではあったが、今までシーズン平均20得点を越えたことがなくスター選手として認識されたことはなかった。しかしバブルに入り最初の5試合で平均34.8得点を記録(最終的には24.5得点)し、一躍その名を世界中に轟かせた。

ポーターJr.は大学デビュー当初は将来ドラフト1位の呼び声も高い有望選手だったが、腰の怪我に悩まされ2018年ドラフトでは14位指名にまで評価が落ちる。今季ようやく試合に出られるようになったものの1試合平均9得点台の平凡な選手だと見られていた。しかし、シーズン再開後は2試合連続で30得点を記録しバブルでのオールNBA2ndチームに選ばれるなど、ここに来て大器の片鱗を見せつつある。

彼らの他にもバブル内で破竹の8連勝を記録したサンズのデビン・ブッカーなどが大きく評価を上げている。ブッカーは元々スター選手だと認識されていたが、ウォレンやポーターは彗星のごとく突如現れた感がありNBAファンの間では驚きの声が多く聞かれた。彼らのカードは定番の『プリズム』のルーキーカードを中心に人気が上昇しており、プレイオフでもこの活躍が維持出来れば次代のスター候補生として認識されることだろう。いや、もしかしたらもう既になっているのかも知れない。

【ルーキー診断】

・ジャ・モラント(グリズリーズ)、ザイオン・ウィリアムソン(ペリカンズ)、八村塁(ウィザーズ)

今季の新人王がほぼ確定しているモラント。彼が所属するグリズリーズはシーズン再開前までは西カンファレンス8位の位置につけており9位のブレイザーズとは3.5ゲーム差も開いていたが、再開後の8試合で2勝しか出来ずプレイインゲーム(プレイオフの8位シードチームを決定するための試合)でも敗退しプレイオフを逃してしまった。プレイインゲームで35得点を挙げたモラント個人の評価は下がることはないが、選手の真価が問われるプレイオフでプレイ出来なかったことは彼と彼のファンにとっても悔いが残ることだろう。

ザイオンはチームへの合流が遅れたためかシーズン再開後の8試合中5試合にだけ出場。出場時間も平均20.6分と制限されたが、それでも18.4得点はやはり怪物と言ったところ。しかしシーズン中は平均27.8分の出場時間で22.5得点を挙げていたので、「再開後のゲームでザイオンの大暴れが見られるのでは?」と期待していたファンにとってはやや肩透かしの結果になった。

日本人期待の八村が所属するウィザーズは、シーズン再開後、チームのエースであったブラッドリー・ビールと第2の得点源として活躍していたダービス・ベルタンスが相次いで欠場を表明。期せずして八村がエース格となった状態で残りのシーズンに突入することとなったが、バブル内7試合(1試合欠場)で平均14.4得点とシーズン平均の13.5得点より少し上回る程度で終了した。八村個人としてはステップアップする千載一遇のチャンスだったが、ルーキーがいきなりエースの役割を与えられてもそれを実行するのはなかなか難しいことなのかも知れない。

今季を代表するルーキーがバブルで大暴れしてあわよくばプレイオフ進出、という期待をしていたファンも多かったと思うが、NBAはそんなに甘い世界ではないと思い知らされる結果となった。ただこの環境でチームを背負ってプレイしたことはこの3人にとって大きな経験となったに違いない。今や押しも押されもせぬスター選手となったデビン・ブッカーやジェイソン・テイタム(セルティックス)も、ルーキーシーズンは13得点台だった。この経験を経て更に大きな選手へと成長することに期待したい。

【その他の有力選手】

・カワイ・レナード、ポール・ジョージ(共にクリッパーズ)、アンソニー・デイビス(レイカーズ)、パスカル・シアカム(ラプターズ)、ジェイソン・テイタム(セルティックス)、カリス・レバート(ネッツ)

上記の例には挙げなかったがこれらの選手もまたプレイオフでヒーローになれる可能性が高い選手である。カワイは既に2チームで優勝とファイナルMVPを獲得しており、異なった3チームでファイナルMVPを獲得するとこれはNBA初の偉業となる。

他の選手に関しても実力は折り紙付きだがシアカム以外は優勝経験がなく、そのシアカムもファイナルMVP獲得の経験はまだないので、このプレイオフは自らの名をNBAの歴史に残す大きなチャンスだと言えよう。

コロナ禍の中断期間を経て再開されたシーズンは新しい時代への幕開けを予感させるものだった。プレイオフではどのチームが勝つのか、どの選手が活躍するのか、手元のカードと共に一喜一憂して楽しみたい。

soma【ライター/イラストレーター】
長年カード関連の企画・出版物に記事を寄稿しているライターであると共に自身も90年代初頭から四半世紀に渡りカード収集を続けているカードコレクター

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