NPB、MLBで活躍した新庄剛志さんが12月7日に神宮球場で行われた「12球団合同トライアウト」に臨んだ。挑戦を発表してから1年間、体を鍛え直した結果は3打数1安打1打点、四球も選び、守備でも警戒な動きを見せた。
新庄さんはトライアウト終了後、6日間でNPB球団から誘いがなかったら、復帰を断念すると宣言。新庄さん本人も、ファンも固唾をのんで6日間を待ったが、残念ながら、誘いはなかった。新庄さん本人の挑戦は終わったが、その波及効果はまだ、続いている。「SHINJO」の夢はまだまだ、続いているのだ。
新庄さんの予想を覆すトライアウトの内容に、新庄人気も復活。新庄さんのトレカを引っ張り出したコレクターも少なくない。そして、大手ネットオークション「ヤフオク!」に幻の直筆サインとも言えるカードが出品された。これは BBM「‘96阪神タイガース・コレクション」に封入された直筆サインカードで、セットとともに5万円で落札された。
新庄さんの直筆サインカードは極めて珍しい。NPB時代、「オフィシャルな」直筆サインカードと言えば、球団公認のイベントなどでペンを走らせたもの。ほかはプライベートサインで、箔サインのカードを除けば、パックから出現するサインはなかった、と信じていた。MLB時代も、ベケットのプライスガイドに確か、ルーキーイヤーの2001年版「アッパーデック」のシリーズ2で「Tsuyoshi Shinjo Autograph」の欄があり、「ホントかいな?」と思いながら、ボックスを買い漁ったことがある。もちろん、当たらなかったが…。
そして、2006年、北海道日本ハムで電撃引退した際は「もうサインはしない」と言い放ち、そのプライベートサインさえもなくなったのではないだろうか。
まさか、タイガース時代にパック(ボックス)から出る直筆サインがあった、とは…。「ヤフオク!」で落札されたセットのパッケージを確認すると「湯舟、藪、和田、八木、新庄の直筆サインが入ったゾ!」とはっきりと記載されている。さらに、自宅の書棚を探して、まだ、ムック本になる前にご近所の回覧みたいな25年前の「スポーツカードマガジン」を見つけ、記事を読むと「今年は湯舟、藪、和田、八木、新庄5選手の直筆サインが入ったゾ!」とこちらにもある「ゾ!」。さらに「それぞれ10枚サインしたカードが、4000箱割る50で、80箱に1枚の割合で入っていることになる。ホントに“当たった君は超ラッキー!”なのだ」と、親切ご丁寧な解説まで書かれているではないか。
このセットは94年から企画され、当初は阪神百貨店と一部のトレカショップでのみ、限定販売された、という。96年版は記事の通り、4000セット限定。当時はトレカショップも少なかっただろうし、買いたくても買えなかったファンやコレクターは多かったはず。そこから出現する直筆サインカードならウルトラ・スペシャル・グレーテスト・レアだろう。
たまたま、この直筆サインを落札したコレクター、Aさんにお話をうかがうことができた。画像も何枚か、見せていただいた。
エッジが若干、丸くなっているのは経年劣化のせいか。当時はまだ、BBMの刻印もなく、真贋の証明は難しい。開封済みのため、どういう状態でサインカードが封入されていたかもわからない。レギュラーカードの番号順に並んでいたなら、直前の番号のカードにインクが若干、残っていた可能性も考えられたが、それもない、という。
Aさんが本物と信じる理由のひとつが、サインの形。上部のひらがなの「つ」に見えるサインの書き出し?が「子供のころに使っていた新庄選手の下敷きのサインと同じなんです」という。このサインは初期のタイプのようで、時代的にも合う。この後、「つ」は消え、サインは変遷していき、ボクが持っているMLB時代のサインボールには「tsu」しか書かれていない。親しい関係者から新庄さんは、ジャイアンツ時代には「剛志」の名前から「つーさん」と呼ばれていた。書き出しも「つよし」の「つ」なのかもしれない。
偽物であると断言する証拠はない。今回の出品者も評価は100%「よい」ではないが、偽造サインを出品した前歴はないようだ。
そうなると、カードのインクの乗り具合などを見ても、どうやら、本物、と見た。筆者が「本物」と判断しても、何の証明にもならないが、とにかく、夢の広がる直筆サインカードであることだけは間違いない。
クリスマスイブには、独立・BCリーグの新潟アルビレックスが新庄さんに入団のオファーを出しているニュースも飛び込んできた。「次の目標は決まっている。今回(トライアウト)より可能性は低いかもしれないが挑戦したる。来年も僕から目を離すなよ」とインスタグラムで語った新庄さん。野球界への現役復帰はないだろうが、その夢にはワクワクする。そして、ほかにもあるかもしれない幻の「SHINJOカード」がどんどん、発見されることにもっと、胸を高鳴らせるのはボクだけではないだろう。
cove【ライター】
国内外のベースボールカードやコレクションアイテムを収集し続けて30年。元スポーツ紙ライター。