スポーツの短期決戦においては、えてして「ラッキーボーイ」や「シンデレラボーイ」と呼ばれるヒーローが出現する。1月9日(日本時間10日)に行われたNFLワイルドカードプレーオフ、タンパベイ・バッカニアーズ対ワシントン・フットボール・チーム戦でもそんな「シンデレラボーイ」が誕生した。
ワシントンは故障した主戦QBのアレックス・スミスに代わり、テイラー・ハイニケを先発起用。この無名のQBはナイスパスを連発し、レシーバーが見つかなければ自らキープランに出てファーストダウンを獲得するなどの大活躍。圧巻だったのは第3Q残り時間2分25秒のプレー。エンドゾーン手前からの3rd&5、スクランブルから左コーナーに自ら飛び込んだ見事なタッチダウンはNFLファンの心を鷲掴みにするのに十分過ぎるプレーだった。
戦前の大方の予想通り、金星は逃したが、スコアは23-31の惜敗。ハイネケはパス306ヤードで1タッチダウンと1インターセプト、ランでもチームトップの46ヤードで1タッチダウン。現役最高と呼ばれる相手QB、タンパベイのトム・ブレイディに見劣りしない輝きを放った。
試合前には誰も気にかけなかったジョージア州出身の27歳が、3時間後にはフットボールファンの心にその名前を刻んでいた。「無名」とはいえ、実はハイネケはオールドドミニオン大では1年生からスターだった。数々の大学記録を塗り替えたが、183センチ・97キロのプロでは決して恵まれているとはいえない体格もあり、ドラフトでは指名されず。フリーでNFLミネソタ・バイキングスに入団をしたものの結果を残せず、ニューイングランド・ペイトリオッツ、ヒューストン・テキサンズ、カロライナ・パンサーズと渡り歩いた。
昨年はXFLリーグのセントルイス・バトルホークスと契約したが、新型コロナの影響でリーグが開催されず、浪人に。大学でエンジニアの学位を取るために学生に戻っていたが、1年間だけ一緒にプレーし、その戦略を理解しているコーチに声をかけられワシントンに呼ばれた。昨年12月27日に初出場したのが2年ぶりの試合だった。
スミスの後継者としてハイネケが来季もワシントンでプレーすることは濃厚だろう。今回の招集で、担当教授に頼んで延期してもらった期末試験はオフに受ければいい。
1月10日の試合中からネットオークション「ebay」では2015年のルーキー時代のサインカードが次々に落札された。トレカ界でもハイネケのルーキーカードは「シンデレラボーイ」になった。
トレカジャーナル編集部