今季のNBAの振り返りとルーキーの活躍具合について【コラム/コレクション】

 昨年12月、いまだ全世界でコロナ禍が続く中で開幕したNBAの2020-21年シーズンは、コロナ陽性者検出による多少の試合中止がありながらも今のところ順調にスケジュールをこなしている。このまま行けば当初の予定通り全チーム各72試合のレギュレーションを消化し、プレイオフも問題なく開催出来そうだ。

 昨季のNBAはコロナ禍で開幕が遅れに遅れ、ファイナルが終わったのが10月11日。通常であれば新チームでのキャンプを済ませプレシーズンに臨んでいる時期であり、その上、翌シーズンの開幕が12月22日となればプレイオフに出たチームは準備期間がほとんど無いことになる。以上のことから「今季の勢力図も昨季とあまり変わらないのでは?」と思われたが、2021年3月下旬(72試合中46試合消化)時点でそんな予想を覆すような快進撃を見せているチームがいくつか存在している。今回は現時点までの2020-21年シーズンを振り返るとともに、目覚ましい躍進を見せているそれらのチームを紹介していきたい。

【ユタ・ジャズ、フェニックス・サンズの躍進】

 今季の順位を予想した時にジャズとサンズを首位候補に挙げるファンは(当該チームのファン以外は)ほぼいなかったのではないだろうか。しかし、両チームともここまでウエスタンカンファレンスの1位、2位につけており、特にジャズは勝率が75%を超えるなど異様な強さを見せつけている。

 ジャズの昨季成績は44勝28敗、ウエスタンカンファレンス6位でプレイオフ進出。プレイオフでも3位のナゲッツ相手にラストワンプレイまで競り合うなど、元々チームとしての地力は高かった。今季に入り昨季加入のジョーダン・クラークソン(元レイカーズ、キャブス等)が控えの柱として完全にフィット。全てのポジションにおいて穴がない完璧なチームへと進化し、シーズンを勝ち抜いている。

 またサンズにしても、昨季のプレイオフ進出チームを決定するシーディングゲームにおいて与えられた8試合を全勝で終えており、この勢いがそのまま今季も持続しているかのようだ。勿論、単なる勢いだけではなく、2018年のドラフトで1位指名したデアンドレ・エイトンが今季は怪我なくプレイ出来ていることや、新加入したクリス・ポール(元サンダー等)が彼らを上手く生かしていることも今の好成績につながっている。

【ヨキッチ、エンビードらビッグマンの復権】

 ステフィン・カリー率いるウォリアーズが3ポイントを武器にした戦い方でリーグを席捲して以来、3ポイントを高確率で決めるガードがNBAにおける最重要ポジションとなった。かつてインサイドで猛威を振るったセンターはこの数年ですっかり必要とされなくなったが、しかし昨季からその傾向が徐々に変わり始めてきている。

 デンバーナゲッツのニコラ・ヨキッチはその代表格だと言えるだろう。211cmのセンターで抜群のシュート力とパスセンスを持つ彼は昔のNBAで言えばとてもスター選手になるようなタイプではなかったが、今季3ポイントを42.7%(2021年3月末現在)という高い確率で決めることにより、コートのどこにいても抑えられない厄介な選手として自身の存在を確立した。

 今季のヨキッチの個人成績は1試合平均27.2得点、11.1リバウンド、8.7アシストと凄まじい。チームは現在ウエスタンカンファレンスの5位につけているがもう少し勝ち星を重ねられれば今季MVP候補の最有力候補として彼の名前が挙がるだろう。

 一方イースタンカンファレンスでも、シクサーズのセンターのジョエル・エンビードが1試合平均29.9得点、11.5リバウンド、3.3アシストと飛躍のシーズンを過ごしている。現在シクサーズはイースタンカンファレンス1位を走っておりエンビードにはMVPの期待もかかっていたが、去る3月12日のウィザーズ戦で左膝を負傷。2週間以上の欠場となり、彼の今季の出場試合数は現状31試合のままでストップしている。しかしチームは依然として好調を維持しており、エンビードの復帰が少しでも早くなれば彼個人としてもチームとしても大きな栄冠を得るチャンスがあるはずだ。

【驚異の超補強!ブルックリン・ネッツ】
 
 今季のNBAを振り返るうえでネッツの話題は外せないだろう。昨季怪我で苦しんだケビン・デュラントとカイリー・アービングの2枚看板が復帰。更にシーズン途中でロケッツから2018年MVPであり3度の得点王、1度のアシスト王に輝いた実績を持つジェームス・ハーデンを獲得。「ロケッツでは王様として君臨していたハーデンが個性の強いデュラント、アービングの2人とフィットするのか?」という懸念はあったが、そんな周囲の心配などどこ吹く風とばかりに合流直後からこの3人は見事なコンビネーションを見せている。

 更にその後、所属チームとのバイアウトが成立した元オールスター選手のブレイク・グリフィン(元ピストンズ)とラマーカス・オルドリッジ(元スパーズ)が相次いで加入。ビッグ3どころかビッグ5が結成され選手個々の実績だけで言えばリーグ最強のチームが誕生した。現時点でネッツはイースタンカンファレンスの1位につけている。中心選手の豪華さに目を引かれるが彼らが不在でも関係なく勝ち星を重ねているのがこのチームの強みと言えるだろう。

【怪我人続出で正念場のレイカーズ】

 最後に昨季の優勝チームであるレイカーズだが、2月下旬に中心選手のアンソニー・デイビスがふくらはぎとアキレス腱の炎症で離脱。また3月下旬にはチームの大黒柱のレブロン・ジェームスも右足首に重度の捻挫を負い復帰時期未定の休業に入っている。レブロン欠場以降のレイカーズは8戦中2勝6敗と急激に勝率が落ち、このまま行けばプレイオフ進出も危うい状態だ。

 レブロン自身は「すぐに戻る」と宣言していたが、少なくとも怪我から10日以上経った現在でも戻って来れていない。連覇を目指すレイカーズにとってレブロンの復帰は必須条件だが、一方、今年36歳のレブロンにとっては選手生命にも拘わる怪我なので慎重に判断して欲しいところだ。

【今季ルーキーの活躍度】

 さて、次は2020-21年シーズンのルーキー達の活躍度診断をしていきたい。今季のルーキーをその活躍度と影響度から【S】~【B】までのランクに分けて、それぞれのランク毎に紹介していこうと思う。

【Sランク(チームのエース、オールスタークラス)】:該当なし

 2018年ドラフト組のルカ・ドンチッチ(マブス)、トレイ・ヤング(ホークス)や2019年ドラフト組のザイオン・ウィリアムソン(ペリカンズ)、ジャ・モラント(グリズリーズ)のように入ってすぐにチームの中心選手となり、翌年にはオールスターとして選出されるような超ド級の選手は、今のところ今季のルーキーの中には見当たらない。しかし何かひとつのきっかけでスーパースターに大化けすることもあり得るので、各選手の今後の成長に期待したい。

【Aランク(チームの中心選手)】:ラメロ・ボール(ホーネッツ)

 昨季は23勝42敗(勝率35.4%)と下から数えた方が早かったホーネッツは、今季ラメロ・ボールの加入によってチームが上手く機能しだした。事実ホーネッツは3月末、シーズン残り26試合を残した時点で既に昨季の勝利数に並び、順位もイースタンカンファレンス4位と好調を維持している。

 ラメロは2m近い長身ながらPGをこなし、その高い視野からくり出される正確なパスと、機を見て放つ3Pシュートを武器とする選手だ。個人成績は平均16得点、6.1アシスト、1.6スティールで得点ではルーキー全選手中2位、アシストとスティールではトップの数字を叩き出している。正に「新人王は確実!」と言えるほどの活躍見せていたが、現地時間3月21日のクリッパーズとのゲームで右手首を骨折。このままシーズン終了となるのではと言われている。

 過去最も少ない試合数で新人王を獲得した選手は1985-86年シーズンのパトリック・ユーイング(ニックス)の82試合中50試合(出場率約61%)だが、ラメロがこのままシーズンを終えた場合、72試合中41試合(出場率約57%)となりその試合数の少なさが新人王獲得の大きな障壁となりそうだ。

 しかしラメロの怪我は4週間で復帰可能という報道もあり、そうすればレギュラーシーズンの終盤やプレイオフには十分間に合う算段となる。現時点では今季ナンバーワンルーキーと断言しても間違いない選手だけに、満足な形でシーズンを終える姿を見たいものだ。

【Bランク(チームの主力)】:タイリース・ハリバートン(キングス)、アンソニー・エドワース(ウルブズ)、
ジェームス・ワイズマン(ウォリアーズ)、パトリック・ウィリアムス(ブルズ)

 ラメロを今季ルーキーの筆頭とするならば次点は上に挙げた4選手になるだろう。

 キングスのハリバートンはラメロと同じく長身のPGで、コーナーからの3Pと巧みなボールハンドリングからのアシストが持ち味だ。現状チームでは4番手、5番手の選手だが平均13.2得点、4.9アシストは見事。シュート確率も高いのでシーズンが進むにつれ更に重要な役割を任されるかも知れない。

 アンソニー・エドワースは2020年ドラフトでの1位指名選手。驚異的な身体能力が持ち味の選手で、日本では渡邊雄太選手(ラプターズ)の上から豪快なダンクを叩きこんだ選手としても有名だ。平均17.6得点はルーキー全体でトップの数字だが、シュート確率は40%を割っており、今のところ1位指名選手としての力量を十分に証明しているとは言い難い。

 ワイズマンはステフィン・カリー、アンドリュー・ウィギンスら強力なスコアラーが在籍するウォリアーズにNBAドラフト全体2位指名で加入。7フィートを超える身長(213cm)ながら走力に優れ、柔らかいシュートタッチを持ち合わせている選手でもある。素材としては申し分ないが、大学でのプレイ経験が乏しいため才能が完全に開花するにはもう少し時間を要するかも知れない。それでも平均22分の出場時間で11.5得点、FG%5割越えは評価に値する数字だ。

 ドラフト4位指名でブルズに加入したウィリアムスは、プロ入り前はそれほど有名な選手ではなかったが、シーズン前のワークアウトでスキルの高さを見せ評価が急上昇。身体能力はさほど高くないが、的確な状況判断と正確なジャンプシュートを武器に平均9.8得点を挙げている。

【カードで振り返る今シーズン】

 さて、ここまでは今季のNBAを主に競技面から振り返ってきたが、ここからはNBAカード(コレクター)側からの視点で振り返ってみたい。

 まず今季大躍進したジャズやサンズの中心選手のカードだが、そのチーム成績ほどには高い評価を得られていないのが現状だ。ここ数年、NBAで優勝、あるいはMVPを獲得している選手は1人で全てをこなしてしまうスーパーマンタイプの選手が多かったためか、ジャズやサンズのようにチーム全体の力で勝ちを重ねているスタイルではコレクター受けが悪いのかも知れない。しかしこれら優れた選手たちのカードがまだ手に入りやすい価格帯に落ち着いているのはファンにとっては有り難い話なので、今が手に入れる絶好のチャンスであるとも言える。

 その点で言えば個人で驚異的な数字を叩き出しているナゲッツのヨキッチ、シクサーズのエンビードらの方がカードの評価は高い。今季最終的な勝ち数がリーグトップのチームとあまり離れていなければジャズやサンズの選手よりも彼らの方がMVPに相応しいと判断されるだろう。また彼らはNBA入りした当初はどちらもここまでの選手になるとは思われていなかったので、今になって慌ててカードを求めるファンが多いのも彼らのカード人気の高さの一因となっている。

 それではケビン・デュラント、ジェームス・ハーデン、カイリー・アービング(以上ネッツ)やレブロン・ジェームス、アンソニー・デイビス(以上レイカーズ)、ヤニス・アデトクンボ(バックス)らのカードはどうだろうか?彼らのカードはここ数年におけるNBAカード高騰の影響で、今シーズンの活躍に関わらず更に評価が高くなってしまっている。

 前出のジャズやサンズの選手、ヨキッチやエンビードと違うのは、彼らは既にこのリーグで優勝やMVP獲得を成し遂げているということ。既に揺るぎない実績がある選手のカードは価値が落ちないので、コアなコレクターやカードを投資対象として見ている人たちの恰好のターゲットとなっている。特にプレイするたびに何らかの個人成績の記録を更新し続けているレブロンのカードは、通常のレギュラーカードでも欲しがる人が多く、コート内でのプレイ同様、カードでも他の選手とは次元の違う存在になってきているようだ。


 
【カードで振り返る今シーズン(ルーキー編)】

 ルーキーらのカードに関しては、ラメロ・ボールが1人だけ飛び抜けており、その次にエドワーズ(ウルブズ)、更にその後をハリバートン(キングス)、ワイズマン(ウォリアーズ)、ウィリアムス(ブルズ)が続く形だ。今季のルーキーではトップの注目度を誇るラメロのカードだが、現在カード市場はあまり熱狂的にならずやや静観している感じがある。それは今季のルーキーの活躍具合に物足りなさを感じている部分が大きいのだろう。

 しかし今季のルーキーがドラフト指名を受けたのは2020年の11月18日。そしてシーズン開幕が12月22日(いずれも現地時間)ということを考えると、戦術を理解するための時間やトレーニングキャンプの期間がほぼゼロの状況でNBAのシーズンに臨んでいると想像出来る。

 昨季のドラフト1位で今季大きな躍進を見せているザイオン・ウィリアムソン(ペリカンズ)にしても、本格的にチームのエースの座についたのは今季中盤から。このことから分かるように、NBAのルーキーがチームの中で本来の力を発揮しようとするにはそれなりに多くの時間と試合数を要するのではないだろうか。

 ひとまず今季ルーキーの序列は決まったが、彼らが本領を発揮するのはむしろ来季以降だと考えられる。本当に大成する選手は誰なのか、現時点でのカード評価に惑わされずお気に入りのルーキーを見つけて欲しい。

soma(ライター/イラストレーター)
長年カード関連の企画・出版物に記事を寄稿しているライターであると共に自身も90年代初頭から四半世紀に渡りカード収集を続けているカードコレクター。

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