昨年のワールドシリーズ覇者のロサンゼルス・ドジャースと、超大型補強でその対抗馬にあげられるサンディエゴ・パドレス。ナ・リーグ西地区のライバル球団の対戦が今年は異様な盛り上がりを見せている。
続く熱闘の中でも、光り輝いたのが4月23日のフェルナンド・タティース内野手だった。敵地ドジャースタジアムで、MLB屈指の左腕、クレイトン・カーショウから3回に勝ち越し3号ソロを放つと、続く5回に4号ソロと2打席連続本塁打。先発のダルビッシュ有を援護し、チームの勝利に貢献した。
実はこの日、タティースは試合前から注目されていた。父親のフェルナンド・タティース(シニア=セントルイス・カージナルス)が1999年のこの日、同じ対ドジャース戦、同じドジャースタジアムで1イニング満塁本塁打2本といういまだ、誰も達成していない記録を達成していた。長い歴史を誇るMLBでも、4月23日にドジャースタジアムで1試合複数アーチを記録した選手はタティース父子だけ、という。MLB公式サイトはこの日を「タティースの日」と命名したほどだった。
今年1月に22歳になったタティース・ジュニアは2月に、14年総額3億4,000万ドル(約359億円)の破格の大型契約を結んだ。これは、マイク・トラウト外野手(ロサンゼルス・エンゼルス)の12年4億2,650万ドル、ムーキー・ベッツ外野手(ロサンゼルス・ドジャース)の12年3億6500万ドルに次ぎ、総額の史上3位という。翌24日にも2発、さらに25日にも敵地のスタンドにアーチをかけて、3戦5本塁打の記録を作った。
父親のシニアは97年にテキサス・レンジャーズでMLBデビュー。ドミニカ共和国を代表する外野手として、5球団で11シーズンプレーし、通算打率.265、113本塁打、448打点をマーク。東京五輪ではドミニカ共和国代表の監督も務める。
ボクが毎晩、欠かさずチェックしているNHKの「ワースポMLB」でシニアの当時の映像を、ジュニアの映像と並べて放送していたが、背番号23が同じだけでなく、打撃フォームもそっくりだった。
ネット百科事典の「Wikipedia」で「親子のメジャーリーグベースボール選手一覧」を検索すると数えきれないほどの父子がリストアップされる。昨季からはトロント・ブルージェイズのブラディミール・ゲレロ・ジュニア、ボー・ビシェット、キャバン・ビジオの、父親もスーパースターの2世選手が注目されている。トレカもTOPPSがインサートによく2世選手を特集する。日本では2016年にBBMが「FUSION」で近藤真一(真市)、弘貴の父子コラボサインという素晴らしいトレカがあるが、父子トレカはほとんどない。
オンデマンドカードの「TOPPS NOW」ではタティース・ジュニアの2打席連続本塁打をカードにしたが、残念ながら父親とのコラボカードではなかった。
NPBにも「父子鷹」(これも日本流の呼び方らしい)の選手はいるが、父親もスーパースターでその息子も球史に残る記録を残した父子はまだ、いない、と言ってもいいだろう。今季、オリックス・バファローズの二塁に定着した太田涼内野手だが、同球団で打撃投手を務める父・暁さんはかつて、近鉄バファローズに所属した内野手だった。
もう時効ということで、明かしてもいいだろう。1988年、ルーキー記者だったボクはドラフト前日、東京・六本木にあった日本ハムファイターズの球団事務所で翌日のドラフト指名選手を取材していた。担当記者の先輩は1位指名が予想される選手の最後の裏取りに飛び回っていた。
事務所の会議室が、プレスルームを兼ねていた、古き良き時代の話である。午後からスカウト会議をその会議室で行うことになり、詰めていた担当記者は追い出された。会議室横のトイレにいっていたボクは出遅れて、トイレから出るに出られない状況に。名誉のために書くが、決して盗み聞きをするためではない。球団常務だった「親分」大沢啓二さんに怒られるのが怖かったためでもない。
やがて、誰を指名するか、指名順をどうするのか、会議が始まってしまった。そのうち、あるスカウトがその場から指名選手の家に電話を始めた。そのうちの一本の電話だろう。「お宅のアキラ君を指名させていただきます」という声が聞こえるではないか。誰だ、アキラって?ドラフト指名候補の名簿を調べると、何と「アキラ」はひとり。帝京第五高校の太田暁投手しかいない。
上位指名ではなかったため、スクープとして記事として書くことはできなかった。実際にはドラフトでもファイターズが指名する前に、バファローズが6位で指名してしまった。暁さんは入団後、内野手にコンバートされたが、一軍出場3試合で無安打に終わった。
話はだいぶ、それてしまったが、父子選手には父子ならではの夢やロマンがある。NPBでもタティースに負けない父子選手の登場と、トレカの登場を待ちたい。
Cove(ライター)
日米のコレクションアイテムを収集して30年。ボブルヘッドのコレクション数とどうでもいいネタは日本一を自負する。保護猫の姉妹を引き取って在宅ワーク中。元スポーツ紙ライター。