高額カードのオークションなどで知られる『PWCCマーケットプレイス』は、アメリカ現地時間の4月26日、レブロン・ジェームス(レイカーズ)のルーキーカードが個人間売買で520万ドル(約5億4000万円)の価格で取引が成立したと発表した。
このカードについては他のニューストピックにて説明されているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。
レブロンのNBAトレカ最高落札額がマントルのルーキーカードの5億4000万円に並ぶ【ニュース/トピックス】
近年はこういったNBAカードの高額取引のニュースがよく取り上げられるが、対象となっているのはほとんどがレブロン世代以降の若い選手ばかり。イメージ的にはNBAの歴史に名を残すレジェンド選手のカードの方が高くなりそうなものだが、そうなっていないのは何故だろうか?
【レジェンド選手に高額カードが少ない理由】
例えば上で紹介したレブロンのカードは、「1パックだけで数万円もする超高級ブランド」から出現する「ルーキーカード」で、かつ「直筆サイン入り」+「実使用パッチ付き」+「少数限定(ゴールド版で23枚限定)」とカードを高レア化する仕組みが1枚の中に全て組み込まれている。
過去のレジェンド選手のカードが高額になり難いのは、彼らの現役時代のNBAカードには上記のようなカードのレア度を上げる仕組みがほぼ無かったからに他ならない。
もし1986-87年シーズンに発行されたマイケル・ジョーダン(元ブルズ等)のルーキーカードが、今回のレブロンのように直筆サイン入り、実使用パッチ付き、かつ23枚限定だったならば、日本円で10億円を越える値がつくことも十分に考えられる。
【レジェンド選手のカードで最強チームを結成】
長いNBAの歴史の中では沢山の素晴らしい選手が存在し、また沢山の素晴らしいカードが発行されているが、前述のような超高額カードに注目が集まる現状ではなかなかその良さを伝えることが出来ない。そんなわけで今回は歴代のレジェンド選手を対象として、ポジション別で「カッコ良いカード」を1枚ずつ選び、それらのカードでスターティングファイブを組んでみたいと思う。なお、選手やカードの種類に関しては筆者の独断と偏見により選考しているので予めご容赦いただきたい。
【ポイントガード】:マジック・ジョンソン(レイカーズ)
カード:1992-93 SkyBox “The Magic Never Ends” #NNO Magic Johnson
「ポイントガードとして最高の選手」という意味で言えば、ジョン・ストックトン(元ジャズ)やクリス・ポール(サンズ)らの名前も挙げられるが、同ポジションで史上最高の選手と言えばマジックをおいて他にはいない。1991年10月にエイズを発症させるウイルスのHIVに感染していることが判明し引退(1995-96年シーズンに復帰するもシーズン終了後に再度引退)するが、キャリア13年で5度の優勝、ファイナルMVPとシーズンMVPを3度ずつ獲得している
このカードは彼の引退後に発売された1992-93年のスカイボックス・シリーズ1のパックにランダムにインサートされたもの。デザインのカッコ良さもさることながら、「マジック(魔法)は終わらない」と書かれたそのメッセージ性に胸が熱くなる。このカードにはシルバー(プリズム)版も存在し、それらは同シリーズのケース購入者を対象に先着順で7500セットが発行されている。
【シューティングガード】:マイケル・ジョーダン(ブルズ等)
カード:1992-93 Fleer “Total D” #5 Michael Jordan
シューティングガードはコービー・ブライアント(元レイカーズ)やドウェイン・ウェイド(元ヒート等)、個人的な好みで選べばマヌ・ジノビリ(元スパーズ)等、個性豊かなタレントが揃っているポジションだが、誰か1人を選べと言われたらこの選手以外は考えられない。6度の優勝とファイナルMVP、5度のシーズンMVPに10度の得点王を獲得。同ポジション最高の選手であり、そしてNBA史上最高の選手とも言われている。
星の数ほどある彼の名作カードの中から1枚を選べと言われれば、個人的にはこのインサートを推したい。ジョーダンは1987-88年シーズンに最優秀守備選手賞を獲得するほどのディフェンスの名手で、このインサートは彼のディフェンスへの姿勢や情熱をそのまま表している。通常であればオフェンスのシーンがメインとなるNBAカードにおいてディフェンスをフィーチャーしたインサートは珍しく、そしてディフェンスでも惚れ惚れするくらいにカッコ良いジョーダンの姿を捉えた貴重な1枚だ。
【スモールフォワード】:ラリー・バード(セルティックス)
カード:1993-94 Fleer “Living Legends” #2 Larry Bird
スモールフォワードは普通に選べばレブロン・ジェームスなのだが、それだと今回の趣旨に反するので過去の選手から選出した。とは言えラリー・バードも3度の優勝と2度のファイナルMVP、そして1984年からは3年連続でシーズンMVPにも輝いている超ド級の名選手だ。
このカードは「生きた伝説」というインサート名の通り、当時NBAでプレイしながらも既に伝説級の実績を残していた選手を特集したカードセットである。複数の写真を組み合わせる手法は当時としては画期的で、この手法は後の同社の名作ブランド『フリアー・フレア(Fleer Flair)』、『ショーケース(Showcase)』へと受け継がれている。非常にカッコ良いインサートだが選手数が少ない(6選手)のと出現率がそこまで厳しくない(1:37パック)こともあり、今でも比較的手に入れやすいカードである。
【パワーフォワード】:ティム・ダンカン(スパーズ)
カード:1997-98 Ultra #131 Tim Duncan RC
NBAで最強のパワーフォワードと言えば、5度の優勝に3度のファイナルMVP、シーズンMVPも2度獲得しているこの選手になるだろう(正直、彼のプレイぶりからすればセンターとして扱う方が適切なのかも知れないが…)。他の候補としては、歴代で7人しかいない通算3万得点達成者のダーク・ノビツキー(元マブス)や、ノビツキーと同じく優勝とシーズンMVP獲得をそれぞれ1度ずつ経験しているケビン・ガーネット(元ウルブズ等)、また素行不良ではあるが史上最高のリバウンダーとして名をはせたデニス・ロドマン(元ブルズ等)らがいる。
これは何の変哲もないカードにのように見えるが、実はNBAカードにおいて初めてルーキーカードに特定の出現率(1:4パック)が設けられたセットである。トレーディングカードにおいてルーキーカードは「レギュラーカードセットのうちの1枚でなければならない」という決まりがあり、当時は「特定の確率を設けることでその決まりから外れてしまうのではないか?」との論争があったが、これが正式なルーキーカードとして認められその後のシリアルナンバー入り、直筆サイン入りのルーキーカードへと続いていく。言わばルーキーカード史においても歴史的な1枚なのである。
今やルーキーカードと言えば数量限定、直筆サイン入りが当たり前になってきたが、こういった普通のカードにこそ価値があるというのは、基本を忠実に守り続けたプレイで結果を出し続けてきたダンカンを体現しているようでカッコ良い。余談だが、このカードは現在手に入れ易くなっているが、状態が良いものに関しては数が極めて少なく、鑑定で「ジェムミント」以上の評価をされているカードは現時点で世界に17枚しかない(2021年5月時点、PSA:746枚中17枚、BGS:358枚中0枚)。
【センター】:シャキール・オニール(レイカーズ等)
カード:1992-93 Stadium Club “Beam Team” #21 Shaquille O’Neal
レジェンド選手を対象にして、歴代ナンバーワンセンターを1人だけ選ぶというのはかなり難しい問題だ。選手として最多の11度の優勝とシーズンMVPを5度獲得したビル・ラッセル(元セルティックス)や、1試合100得点、シーズン平均50得点以上をはじめ数々の怪物的な個人記録を持つウィルト・チェンバレン(元シクサーズ等)、NBA史上最多得点選手(通算3万8387得点)であり歴代最多の6度のシーズンMVPを誇るカリーム・アブドゥル=ジャバー(元レイカーズ等)ら、そうそうたるメンツがこのポジションに集結しているからだ。
ただ今回の「カッコ良いカード」という企画の都合上、ここはシャックを選ばせてもらいたい。偉大なレジェンド選手といえども、90年代以降のデザイン性と品質の高いインサートにラインナップされていなければ、なかなかカッコ良いカードは存在しないのだ。
しかし、だからと言ってシャックが彼らに劣っているわけではない。4度の優勝に3年連続のファイナルMVP、またシーズンMVPも1度(1999-2000年シーズン)獲得しており、これは花形ポジションがガードに移った近年のNBAにおいてセンターがMVPを獲得した最後のケースとなっている。
NBAカードのコレクターに「シャックの代表的なカードを1枚挙げよ」と聞くと、ほとんどの人がコレを挙げるのでは?と思われるくらいに有名なカード。ビームを連想させる光線状のフォイルと、その間を引き裂くかのように出現したシャックの姿が印象的な1枚だ。全てのシュートをダンクで叩き込み、リングを2基破壊する驚異の新人・シャックの力強さを象徴するようなカードだと言えるだろう。
【インサートでスターティングファイブを選ぶと?】
以上がレジェンド選手でスターティングファイブを組んでみた結果となるが、選手の実績中心で選考したこともあり「カッコ良いカード」という観点では少し弱い結果となった。蛇足となってしまうが、以下に選手の実績は別として単純に「カッコ良いカード」という部分に主眼を置いたスターティングファイブも選出したのでご覧いただきたい。
【ポイントガード】:1996-97 Fleer Showcase Row2 #3 Allen Iverson
【シューティングガード】:1998-99 Ultra “Gold Medallion” #61G Kobe Bryant
【スモールフォワード】:1994-95 Hoops “NBA Co-Rookie of the Year” #NNO Grant Hill
【パワーフォワード】:1993-94 Upper Deck SE “Die Cut All-Star” #W5 Chris Webber
【センター】:1993-94 Ultra “Scoring Kings” #9 David Robinson
カードを手に取り、その選手が辿ってきた伝説の日々に思いを馳せる。レジェンド選手のカードにはそういう楽しみ方がある。カードには彼らが選手だった時代の輝いている姿が写っており、我々はそのカードを手に取るたびにその時代へとタイムスリップ出来る。
そのために必要なのは高額なカードではない。彼らの魅力を凝縮したようなカッコ良いカードが1枚あればいいのだ。
soma(ライター/イラストレーター)
長年カード関連の企画・出版物に記事を寄稿しているライターであると共に自身も90年代初頭から四半世紀に渡りカード収集を続けているカードコレクター。