TOPPS社の「Chrome」の大ヒットもあり、フォーミュラワン(F1)のトレーディングカードが注目を集めています。「ゴールディン・オークションズ」ではミハエル・シューマッハのルーキーカードであるGRID「1992 Formula One」カードナンバー51番が今年4月に2,040ドル(約22万円=バイヤーズプレミアム込み)を記録してから、1,000ドルを超える高値で立て続けに落札。間もなく発売されるTOPPS社の「2021 Formula 1 Racing」などの新商品だけでなく、古いF1カードにもさらなる注目が集まっています。
TOPPS社は昨年、FORMULA ONEとトレーディングカード化に関する契約を結び、オンデマンドカードの「TOPPS NOW」で早速、カードを発行すると期間限定の発売だったこともあり、人気を博しました。定価9.99ドル(約1,000円)だった「絶対王者」ルイス・ハミルトンの「TOPPS NOW」は現在、1,000ドル(約11万円)を超える額で取引されています。数か月で100倍にプライスがアップするトレカはなかなか、ありません。
「TOPPS NOW」の人気もありTOPPS「Dynasty」、そして「Chrome Formula One」が脚光を浴びました。そこまでには、直筆サインより「Chrome」系やPANINI「Prizm」系のパラレルが人気を高めていることや、バスケットボールやサッカーなどのトレカBOXの高騰、さらには、TOPPS社にとっては初のジャンルのカード化=つまり、すべてがルーキーカード(RC)扱いになる、などさまざまな要因がそろって、タイミングよく大きな流れとなり、大ヒットにつながったのだと思います。
話を冒頭の「ゴールディン・オークションズ」で落札され続けているシューマッハのGRID「1992 Formula One」カードナンバー51番に戻すと、実はこのブランドにはシューマッハのカードは5枚ほど入っていて、51番よりも若い18番にヘルメットを被ったシューマッハが乗ったマシンのカードがあります。同じブランドでも一番若い番号がルーキーカードとして人気が高い、という法則が当てはまらず、シューマッハの顔がアップでよく写っている51番がルーキーカードとして人気であることも新しいF1ファン、F1トレカコレクターの誕生を証明しているのではないでしょうか。
F1は1950年代に始まり、世界的なモータースポーツとしてジャンル的には大きく、奥の深いものです。70年代後半から80年代に最初のブームが来て、87年に日本でもテレビ放送が始まりブレーク。歴史と伝統もあり、ファン層も幅広い。ただし、今回は従来のF1のファンに加え、ジャンルにこだわらずトレカを楽しむコレクターたちも、前述の流れを受けてトレカ市場に大手メーカーが初めて登場させた大きなジャンルであり大きなアイテムであるF1トレカの購入に参入したのです。BOXは高価ですが、ハミルトンのシリアル入りパラレルでも引き当てれば、元は取れる=投資効率が高いことも人気となった要因と言えます。
F1トレカはF1自体のブームに合わせて、これまでも発売されていました。1987年にPANINI社がステッカーの「SUPER SPORTS」を制作。90年代に入り、最初のブームがやってきました。CARMS社「1991 Carms」、PRO TRAC’S社「1991 Vrooom!」、同「1991 Formula1」、GRID社「1992 Fomula 1」、FUTERA社「1994 Grand Prix」、「1995 Grand Prix」と続きました。FUTERA社は2000年に入ってからも「2005 Grnd Prix」、「2006 Unique Grand Prix」を発売しました。
それぞれにF1のファン心理をくすぐる特徴があり、PRO TRAC’S社の「1991 Formula1」には200種のレギュラーカードの中に各マシンのエンジンを写した「エンジンカード」が封入されました。これはかなり、萌えます。TRAC’S社の商品は本当によくできていて、構成も抜群です。PMC社はアイルトン・セナだけの162種のセット「A.Senna THE MAGIC」を発売。「音速の貴公子」は94年の第3戦、サンマリノGPで帰らぬ人となりましたが、このセットは84年のデビュー戦から94年までのセナの足跡を追いかけたもので、感慨深い内容でした。
昨年のTOPPS社のF1カード発売まで約15年間は空白の期間がありました。かつてのF1トレカの存在を考えると、昨年からのF1トレカのブームは新しいファンを開拓したと同時に、昔からのファンにはトレカのカテゴリーとしての価値を再認識させた、ということになるでしょう。
それでは、今後のF1トレカはどうなっていくのでしょうか?この勢いがそのまま続くこと、持続させることは難しい課題です。F1は選手がMLBやNBAのように毎年入れ替わることはありません。ルーキーが彗星のごとく現れたり、かつてのシューマッハのように、その走りで91年のシーズン中にチームがジョーダンからベネトンに引き抜かれたりするようなこともごく稀です。今はハミルトンがトレカ的にもナンバーワンの人気。今年はマックス・フェルスタッペンとランド・ノリスの活躍で今後人気もアップするでしょうが、目立った選手の動きはそれぐらいなのです。
そうなると、今後はレジェンドの存在がクローズアップされるのでは、と考えます。そういう意味ではアラン・プロスト、ナイジェル・マンセル、フェルナンド・アロンソといったかつてのチャンピオン達、そしてもうサインカードは作れませんが、ニキ・ラウダやセナのカードが新しいブランドに封入されていけば、と思います。時代によりマシンやレギュレーション、ライバルの存在などで大きく変わるので、年間優勝7回のハミルトンとシューマッハはさすがにすごいとは思いますが、3回のセナが二人に劣るかといえば、そのようなことは絶対にないのです。タイトルは無くとも、ジル・ヴィルヌーヴやジャン・アレジの様に、印象深く、絶大な人気を誇るドライバーもいます。
ただし、昔からのF1ファンとしては、サインカードはチームノベルティとして存在する絵葉書大の「ドライバーズ・カード」にまかせて、より希少なメモラビリアのカードを作ってほしいところです。これまでにもメモラカードはありましたが大概バラクラバ(耐火アンダーシャツ)でしたので、これまでほとんど出ていないドライバースーツ、グローブ(手袋)、マシンパーツ等に期待します。さらに、エンジンカードや、マシンの写真を使ったマシンカードももっと増えてもいいですね。マシンは開催年によって、レースによっても微妙に違いがあって、はまるとキリがありません。
今後F1トレカが一過性のブームに終わらず、市民権を得ていけば、まだそれほど高値ではない90年代のF1トレカも高騰して行くのは間違いないでしょう。
田村亮一(MINT LAB TOKYO 館長)
さまざまなスポーツ、国内外のトレーディングカードに造詣が深い。広島東洋カープのファン。トレカのみならず、収集するアイテムの幅も広い。