珍カード珍道中➁「ヒデオ・ノモのサインカード」【コラム/コレクション】

8月31日は野茂英雄さんの誕生日である。すっかり、忘れていた。25年前、1996年のこの日、ドジャースタジアムの三塁側ロッカールームにボクはいた。MLBロサンゼルス・ドジャース担当記者だったボクは会社から夏休みをもらって日本に一時帰国。この日の午前中にロサンゼルスに戻ってきたのだ。

夏休みに「日本に帰国」なんて妙な気分だが、ボクには成し遂げなければいけないミッションがあった。自宅に積まれたストレイジボックスの中から過去のFLEER「Ultra」のダブりカードをピックアップして、ロサンゼルスに持って戻ってくる。そして、ヒデオ・ノモに渡す。誕生日プレゼントとして…。

「Ultra」のレギュラーカードとゴールドメダリオン、プラチナム・メダリオンのパラレル、インサートが詰まった3200枚入りのストレイジボックスは重たかった。成田空港のチェックイン時に怪しまれたが、何とか、くぐりぬけた。

試合前、もちろん、この日は登板日ではないヒデオ・ノモは2週間ぶりにボクの顔を見てもニコリともしなかった。ちぎれそうな紙袋に入れたストレイジボックスをロッカーに置き、説明するとペコリと頭を下げた。

ヒデオ・ノモがコレクターなのは知る人ぞ知る事実である。NPB近鉄バファローズ時代に、ロッカールームでは阿波野秀幸、吉井理人らとMLBのトレカを見て夢を膨らませていた、という。96年2月、フロリダ州ベロビーチでのスプリングトレーニング。メジャー2年目を迎えた仏頂面のヒデオ・ノモとロッカールームで、ようやく、会話が成立したのはトレカの話だった。

「昨日、コンビニで3パック買ったら、こんなの出ましたよ」と笑顔で見せてくれたのは、TOPPS「シリーズ1」のミッキー・マントルのリプリントだった。ベロビーチに当時、カードショップはなかった。でも、そこはアメリカ。コンビニやスーパーマーケットにはトレカがパックとボックスで売っていた。スプリングトレーニングは9時くらいから練習が始まり、15時ぐらいまでには練習は終わる。ヒデオ・ノモは練習がスタートする前、早朝にグラウンドを訪れ、黙々とひとりでランニングをしていたが…。日本との時差もあり、日本にいるデスクと打ち合わせして、原稿を書くのは夜になる。

つまり、ボクにとっては15時からの数時間が至福の時になる。平日は車でコンビニとスーパーマーケットを回り新商品をチェックする。大きなおもちゃ屋も要チェックだ。1時間ほどの距離にある街のトレカショップも毎週、訪れる。土曜日と日曜日はやっぱり、カードショー。ベケットのカードショーのスケジュールを見て、レンタカーを走らせる。オープン戦が始まれば、対戦相手のチームがキャンプをしている街で新しいカードショップを探し出すチャンスだ。

そんな時、ちょうど「Ultra シリーズ1」が発売された。「ターゲット」のトレカ売り場でヒデオ・ノモと鉢合わせして、譲り合ったことがあった。そこから、「Ultra」の話題で盛り上がり、パラレルをコンプリートしようとしていることを知った。ドジャースタウンの自室で、バインダーに番号順に並べた「ゴールドメダリオン」のコレクションを見せてもらった。

直筆サインよりパラレル(ショートプリント)の時代となった現在のトレカ業界。四分の一世紀前から、ヒデオ・ノモはパラレルを収集していたとはさすが、である。「じゃあ、今度、家にあるダブりカードを持ってくるよ」というと「自分で苦労して集めるのがいいんです」とちょっとムッとしていたのもさすが、である。

前振りがかなり、長くなったが、そして、翌97年のベロビーチ・キャンプである。ヒデオ・ノモのロッカーに行くと、まだ、発売していないTOPPS「シリーズ1」のシングルが大量に置いてあるではないか。スプリングトレーニングは、カードメーカーにとっては封入するサインを選手にもらったり、その選手のシングルカードをファンサービス用に大量に渡したりする。ヒデオ・ノモがファンの差し出すボールにサインをしようとしているなかなかのデザインだった。よほど物欲しげの見えたのか「欲しいなら、あげますよ」と背中をむけてゴソゴソ。10枚ほどをくれたのだ。

これは前年の誕生日プレゼントのお返しだったのだろう、勝手に思い込んだ。トレカにはトレカ、ということか。ホテルに戻り、驚いた。10枚のうちの1枚にサインがしてあったのだ。MLBのルールとして、報道陣は選手にサインをもらってはいけない、というものがある。取材証にも大きく明記されている。だから、余計に驚いた。

もちろん、プライベートサインの価値はそれほど高くはないことはわかっていた。傷や汚れにしか扱われないことも知っていた。それでも、うれしかった。もしかしたら、ファンに配るために、先にサインをしておいたカードが混じってしまったのかもしれない。それでも、ボクはヒデオ・ノモがボクのためにサインしてくれた「1 of 1」だ、と今でも信じている。

Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。95年~98年、ロサンゼルス、ニューヨークに駐在してドジャース・野茂英雄とヤンキース・伊良部秀輝を主に取材。渡米前からトレカにはまり、米国滞在中にはじける。日米のコレクターズアイテムを収集して30年余り。保護猫の姉妹を引き取り在宅ワーク中。

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