色々あった2021年も気がつけば3/4が過ぎ、バスケの試合で言うところの最終クォーターに突入。NBAの2021-22年シーズン開幕も目前に迫ってきたということで、その前に2020-21年シーズンのNBAカードシーンの総括をしておきたいと思う。
【有望ルーキーたちの評価】
2020-21年のトップルーキーはラメロ・ボール(ホーネッツ)、アンソニー・エドワーズ(ウルブズ)、そしてタイリース・ハリバートン(キングス)の3人。それ以外だと、日本人好みな小兵ガードのファクンド・カンパッソ(ナゲッツ)のプレイオフでの躍進や、サディック・ベイ(ピストンズ)、パトリック・ウィリアムス(ブルズ)らのシーズン終盤での追い上げもあったが、シーズンを通しての実績とプレイ内容を評価するのであれば今季のトップは前述の3人に絞られるだろう。 その中でも頭一つ抜けていたのはやはり、新人王を獲得したボールだ。
プレイの評価はスポーツメディアに任せるとして、ここではNBAカード市場からの視点で雑感を述べていきたい。
新人王のボールは成績(平均15.7得点、5.9リバウンド、6.1アシスト)も話題性も今季ルーキーの中ではトップだが、それでもルーキー豊作年だった昨年度(ザイオン、モラント、バレット、八村等)や、今やNBAのスターへと成長したドンチッチやヤングらを排出した一昨年度のルーキーと比べてしまうとどうしても物足りなさを感じてしまう。
それは成績面で少し見劣りするというのもあるのだが、その他にも今季はコロナ禍によるパック・ボックス価格高騰の影響で、ある程度安くパック・ボックスが購入出来ていた昨年度以前のルーキーよりも一層シビアな目で見られていることが大きい。これらは選手の努力ではどうにもならないことなので、そういう意味では今季のルーキーたちは不運であったと言える。
そして肝心の成績面に関しても、彼らは大きな不利益を被っていることを見逃してはいけない。
今季の開幕前の出来事に目をやると、2020年のNBAファイナルが終わったのが10月11日で、2020-21年シーズンの開幕は12月22日だった。つまり今季のルーキーは、シーズン前のキャンプやプレシーズンゲーム等の準備期間がほとんど与えられずにシーズンを戦っていたことになる。これでチームの中心選手として活躍しろというのは到底無理な相談だ。
だからボールら2020-21年度のルーキーに関しては、今この時期がカードを集めるのに絶好のチャンスであると言える。次のシーズンこそ、本来準備期間がちゃんと与えられていれば活躍していたはずの選手が真価を示すシーズンになるからだ。
【クリス・ポール初のファイナル進出】
「ポイントゴッド(PG)」の異名をとり現役ガード選手の中では別格の評価を受けながらも、今まで優勝には縁の無かったクリス・ポール(サンズ)が遂にキャリア16年目にして初めてのファイナル進出を果たした。NBAカード市場もこれに素早く反応し、「いよいよ優勝なるか」とポールのルーキーカードの注目度はファイナルを前にして最高潮に達した。
「ポールは『優勝を経験していない中では史上最高の選手』として現役を終えるのでは?」と思われていただけに、今季のファイナル進出は彼を応援しているファンやカードコレクターにとって正に待望の出来事だった。彼のルーキーカードに注目が集まったのは、最後は彼に優勝して欲しいというカードコレクターの願望だったのではないだろうか。
しかし、結果として優勝の栄冠はヤニス・アデトクンボ率いるミルウォーキー・バックスが手にすることとなった。昨シーズン、ヤニスとバックスは優勝の最有力候補として名前を挙げられながらカンファレンス・セミファイナルであえなく敗退。その雪辱を果たしたと考えるとこれはこれで素晴らしいストーリーではあるが、ポール側から見ればバッドエンドになってしまった。
今オフ、36歳のクリス・ポールはサンズと4年契約を締結。彼の年齢を考えるとキャリアのラストはサンズで過ごす可能性が高くなり、万が一、サンズを出ることがあるとしたらそれはもう優勝を狙える力が無くなった時か引退の時だろう。最後の賭けが当たるのかどうか、来季も変わらず注目していきたい。
【ジュリアス・ランドルの覚醒】
今季大きく躍進を遂げた選手を挙げるとするならば、まず誰よりもジュリアス・ランドル(ニックス)の名前が挙がるだろう。昨シーズンからニックスのエースとして活躍していたが、今季は球離れを良くすることでチームを高いレベルで機能させることに成功。チームを8年ぶりのプレイオフに導くと共に自らも平均得点を5点近く伸ばし(平均24.1得点)、2020-21年シーズンのMIP(最優秀躍進選手賞)の投票では100人中98人もの1位票を集め、同賞を初受賞した。
2014年のNBAドラフト7位でレイカーズ指名されたことから分かるように、元から評価が高い選手ではあったが、NBA公式戦デビューとなるロケッツ戦で右足を骨折したことでルーキーシーズンは僅か14分の出場で終了。
翌年から戦列に復帰し活躍を見せるが、同時期にNBA史に残る大エースのコービー・ブライアントや、次代のスター候補生のディアンジェロ・ラッセル(現ウルブズ)、ブランドン・イングラム(現ペリカンズ)、ロンゾ・ボール(ペリカンズ→2021-22年シーズンからブルズ)らがいたこともあり、彼にエースのスポットが回ってくることは無かった。
その後、2018年にFAでペリカンズに移籍。そのシーズンは20得点以上を挙げる活躍をしながらも、同チームにアンソニー・デイビス(現レイカーズ)、ドリュー・ホリデー(現バックス)がいたためにまたもエース級の選手と見られることは無かった。
本格的にエースとして扱われたのは2019年にFAでニックスに移籍してからであるが、実際は上記のようにコンスタントに活躍を続けていたので、今季の活躍を「覚醒」という言葉で括るのはちょっと乱暴なような気がする。
そのような経緯もあってか、彼のカードはまだNBAのエースとしての敬意を得られていない状態にある。それはデビュー当時からスーパースターだと認識されずにきて、気がつけばチームに多くの勝ち星をもたらし自身もMVPも獲得したニコラ・ヨキッチ(ナゲッツ)と似たような境遇にあるのかも知れない。
ニックスはパトリック・ユーイング(元ニックス等)時代以来、プレイオフで勝てるチームを作れていない。ランドルが現代のユーイングとなってニックスを蘇らせることを彼とニックスのファンは心待ちにしている。
【AKATSUKI FIVE フィーバー】
最後はNBAとは少し話がズレるが、日本在住のNBAファン、スポーツファンとしては地元開催となった東京オリンピックに触れないわけにはいかない。
バスケットボールの男子日本代表は、メンバーに八村塁(ウィザーズ)、渡邊雄太(ラプターズ)、そしてオーストラリアのプロリーグ・NBLで優勝を果たした馬場雄大(メルボルン・ユナイテッド)らを擁し、「史上最強の男子日本代表チーム」として今大会に臨んだ。
結果としては予選リーグ3戦全敗だったが、対戦相手がドンチッチ率いるスロベニア、リッキー・ルビオ(ウルブズ→2021-22年シーズンよりキャブズ)、ガソル兄弟他、元NBA選手も多数のスペイン、そしてナゲッツのカンパッソやルイス・スコラ(元ロケッツ等)がいるアルゼンチンなど、他ブロックと比べても一番の強豪国が揃ったブロックでありながら、全ての試合で「勝負出来た」と思える試合内容だったのは収穫だったと言っても良いだろう。
そして、男子代表以上に衝撃を与えたのが女子日本代表。機動力と緻密な戦術、どこからでも狙える3ポイントを武器に勝ち進んだ女子のAKATSUKI FIVEは、決勝で絶対王者のアメリカと対戦し、途中までほぼ互角の展開だったものの、最終的にはアメリカの圧力に押し切られ75-90で試合終了。
アメリカに勝つという意識で臨んだ女子代表に対して「(負けて)大健闘」というのは失礼にあたるだろうが、それでもオリンピック決勝まで勝ち進んでの銀メダル獲得は日本バスケ史上初の快挙であることは間違いない。
上記の結果を受けて一躍注目されたカードセットがある。それが2018年に発売された”BBM AKATSUKI FIVE TRADING CARDS SET 2018 RISING SUN”だ。
このセットは2019年のFIBAワールドカップ出場に向けて招集された男女日本代表チームが対象となっており、当時グリズリーズと2Way契約を結んだ渡邊がラインナップされたこともあって、発売当初は日本のNBAカードコレクターの間でも大きな話題となった。(ちなみに八村も当時の日本代表に選出されているが肖像権等の兼ね合いなのかカードにはなっていない)。
このセットにラインナップされている選手の大半が今回の東京オリンピックでも主力として活躍していることから、未開封セットやシングルカードの需要が急増。国内オークションサイトではAKATSUKI FIVEのカードが連日出品され、直筆サインカードなどはオリンピック開催前と比べて数割増し(女子代表に関しては数倍)の価格で取引されるようになった。
特にオリンピックのアシスト記録(1試合18アシスト、大会平均12.5アシスト、共に記録更新)を塗り替え、今大会のベスト5にも選出された町田瑠偉選手(Wリーグ・富士通レッドウェーブ)のカード価格の上がり具合は凄まじく、今まで同セットで最大の目玉だった渡邊選手を超えるほどにまで高騰した。
このオリンピック後のブームも現在ではひと段落しているが、町田選手のカードに関しては今後もそこまで相場が下がることは無いのではないかと考えられる。「オリンピック銀メダル」「アシスト記録樹立」そして「オリンピックでの大会ベスト5選出」は、今後日本人で再び成し遂げる選手が出てこないかも知れないほどの偉業だからだ。
【車いすバスケットボールの衝撃】
AKATSUKI FIVEの話でこのコラムを締める予定だったが、やはりこちらも触れておかねばならないだろうということで少しだけ車いすバスケットボールの話をさせて欲しい。
東京オリンピックの後に開催されたパラリンピックの車いすバスケットボールの男子決勝において、男子日本代表がアメリカを相手に互角以上の熱戦を繰り広げ、最後は紙一重の差でかわされたものの最終スコア60-64で堂々の銀メダルを獲得。そして日本の中心選手である鳥海連志(ちょうかい・れんし、パラ神奈川SC所属)選手が大会MVPに輝くなど多くの人々に勇気と感動を与えた。
実はこの車いすバスケットボールにも選手カードが存在する。2018年に開催されたパラスポーツ関連のイベントで『プロ野球チップス』のパラスポーツ版である『パラスポーツチップス』が配布され、そこから出現するカードの中に海外プロリーグで活躍する香西宏昭選手(ブンデスリーガ・RSV Lahn Dill所属)のカードがラインナップしていたというもの。
2018年以降の特定のイベントで配布されたもののため今となっては入手困難だが、発行枚数自体はそこそこあると思われるので、手に入れたい人は頑張って探してみるといいだろう。
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振り返ってみると2020-21年シーズンは、日本のNBAファン、バスケファンにとって忙しくはあったがとても楽しく充実したシーズンだったのではないだろうか。そして、この楽しさと勢いが更に加速した状態で新しい2021-22年シーズンが始まろうとしている。昨年以上に忙しいシーズンになるだろうが、それはまさしく嬉しい悲鳴というものだ。
soma【ライター/イラストレーター】
長年カード関連の企画・出版物に記事を寄稿しているライターであると共に自身も90年代初頭から四半世紀に渡りカード収集を続けているカードコレクター