大谷翔平(MLBロサンゼルス・エンゼルス)が11月29日、最優秀指名打者に贈られる「エドガー・マルティネス賞」を受賞した。49年目を迎えた同賞で、日本人選手は初受賞となった。
「エドガー・マルティネス賞」はア・リーグがDH制を導入した1973年にスタート。DHで年間100打数以上を対象に記者、放送関係者、球団広報担当者らの投票で決める。当初は「年間最優秀指名打者」という名称だったが、2004年、5度目の同賞に輝き、この年限りで現役を引退したマルティネスを讃え、バド・セリグコミッショナーが名称を変更した。
マルティネスは通算2247安打を放ち、打率.312、309本塁打、1261打点。首位打者2回、打点王1回を獲得し、シルバースラッガー賞には5回、輝いた。オールスターゲームにも7回、選ばれた。一塁、三塁を守ったが2055試合のうち、1403試合にDHとして出場。グラウンドでの活躍だけでなく、奉仕活動にも積極的に取り組み、2004年にはロベルト・クレメンテ賞も受賞している。
2019年にはケン・グリフィー・ジュニア外野手以来、マリナーズでは2人目の殿堂入りを果たした。人気の理由のひとつには、マリナーズひと筋で18年間プレーしたフランチャイズプレーヤーだったことだろう。マリナーズにも人気選手は多かった。それでも、グリフィーは、レッズ、ホワイトソックスと渡り歩いた。Aロッドことアレックス・ロドリゲスもレンジャーズ、ヤンキースへと移り、イチローでさえ、ヤンキース、マーリンズとチームを変えた。
かつてスポーツ紙のライターだったボクは1995年途中からロサンゼルス・ドジャースの担当記者として米国に駐在した。もちろん、野茂英雄投手の取材のためである。98年限りで帰国したため、イチロー外野手、マリナーズの取材はできなかったが、マルティネスはお気に入りの選手だった。90年前後からMLBファンになったボクがトレカにもハマった。カードでしか見ることができない選手を覚えるのは、その顔だった。
グレッグ・マダックスは「ダイ・ハード」のブルース・ウィリス、マルティネスは「マッド・マックス」のメル・ギブソンに似ていると勝手に思い込んでいた。7月に渡米した際に、シンシナティでのレッズ戦からアトランタでのブレーブス戦を取材。「ダイ・ハード」なマダックスは有力視されていた球宴での先発を回避することを発表。暗いニュースにさすがの報道陣も取材を譲り合っているうちになぜか、ボクが押し出されてマダックスの真横で話を聞くことに。そんなに英語に達者ではないボクは本当にウィリスに似ているな、などと考えながら、ただうなずいていたことを思い出す。
そして、野茂の球宴先発が決まる。テキサスの暑い夜。今度は対戦相手のア・リーグのスタメンにあの「マッド・マックス」なマルティネスがいるではないか。野茂を応援すべきか、マルティネスを応援すべきか…やっぱり、ギブソンに似ているな、などと考えているうちに、野茂の前に三振となってしまった。試合後の蒸し暑いロッカールーム。野茂についての話を聞こうとマルティネスの元へと行こうと思ったら、大混雑でたどり着けずタイムアップ。野茂の会見場へ呼ばれてしまった。
最強の指名打者に失礼な話である。だが、もし、引き続き、駐米してマリナーズの担当記者になっていたら、絶対、「メル・ギブソンに似ていますね」とボクは聞いていた。球界でも屈指の人格者であるマルティネスは「そんなことを聞くなんて、お前は『ブレイブ・ハート』だな」と答えてくれたかもしれない。
みなさんも、どうぞ、マルティネスのギブソンぶりをトレカで確認して欲しい。
Cove(ライター)
国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。トレカはレギュラーカードのコンプリと、日本人メジャーが中心。日本でただひとりのバブルヘッドライター(自称)。