ジャイアンツの大物OBふたりが長年、出演してきた人気テレビ番組を先週末限りで、相次いで「卒業」した。
江川卓さんは12月25日、「Going!Sports&News」(日テレ系)を11年間8か月、続けた。その前身は1994年に始まった「スポーツうるぐす」で、「SUPERうるぐす」、そして「Going―」と週末深夜帯のスポーツ番組の顔でもあった。他の解説者とはひと味違う、野球の評論には定評がある江川さん。11月末に「卒業」を発表してから、同番組では現役時代、作新学院、巨人の江川さんを紹介する企画を毎週、放送してきたが、これがまた、興味深かった。
江川さんの現役時代の直球は、打者にとっての体感速度が、大谷翔平も、松坂大輔も上回っていたことを科学的に検証していた。もっと、早くにこの企画をやっていれば、江川さんの人気はさらにアップしただろうに…。
最後の放送では、巨人・原辰徳監督がビデオ出演し、江川さんをねぎらい、指導者としての現場復帰を促す場面も。かつて、ヘッドコーチに就任が内定しながら、話が潰れてしまった経緯があるだけに、66歳と、まだまだ、若い背番号30のユニホーム姿が見たいのは、ボクだけではないはずだ。
実はボク自身、日テレ系の情報番組にレギュラー出演させていただいた経験がある。大人の「11PM」の後番組としてスタートした夜のスポーツニュース&ワイドショーに毎週、月、水、金の3日間、生出演。その週末に放送されたのが江川さんの「うるぐす」だったのだ。帰宅して楽しむOLさんをターゲットにしたこのワイドショーでプロデューサーから「オナピー」(理由はご想像通り)と芸名をつけられそうになったが頑なに拒否したのは、今ではいい思い出である。
ボクの出演はわずか半年で終わったが、それを考えても江川さんの「タレント」としての優秀さがわかる。当たり前だけど…。
江川さんは最後に「私はもう少しはマウンドに登ってみたいと思っています。本当にありがとうございました」と言った。このまま、評論家も辞めてしまうかと心配したファンは胸をなで下したに違いない。
そして、翌26日。張本勲さんが「サンデーモーニング」(TBS系)を「卒業」した。球界のご意見番として「喝!」「あっぱれ!」でお茶の間を沸かせた張本さんは1999年から23年5か月間も、お茶の間をよくも悪くも注目を集めてきた。
野球に限らず、あらゆるスポーツに「喝!」を送り続けてきた。毎週金、土曜日に資料を調べ、日曜日当日は朝5時に起床。もう81歳。「シニア人生をゆっくり過ごしたい」と勇退を申し出た。今後は「釣りもやりたいし盆栽もいじってみたい。やりたいことはたくさんある」という。
この日は、巨人で「OH砲」としてコンビを組んだ王貞治さん(福岡ソフトバンクホークス球団会長)が駆けつけた。イチローさん(シアトル・マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)、現役続行で移籍先を選択中のサッカーのカズこと三浦知良、元横綱白鵬の間垣親方からサプライズで、ビデオメッセージが届いた。
「特に我々野球界の後輩に厳しいお言葉を、いただいてきました。しかしそのほとんどは叱咤でもあり、激励でもあったと感じています。意図的に張本さんが厳しいスタンスを取られてきたその姿勢は、まさに『あっぱれ』だった。張本さんにしかできないことで、これからも出てこない。しかし、このコーナーは『喝!』があるから面白い。だから最後も盛大な喝をいただきたいので、このメッセージをお送りします。ハリー、お疲れさまでした」とイチローさん。期待に応え、最後の「喝!」をもらっていた。
カズは「その節は叱咤激励ありがとうございました。張本さんに『早くお辞めなさい』と言われないようにこれからも頑張る」と、かつて、騒動になった事件を引き合いに出し、張本さんの「喝!」をバネに現役を続けてきたことに感謝した。
確かに失言も多かったが、これらこそ、が張本さんの「喝!」の本意だったのだろう。
「張本さんロスが続出しますね」とイチローは言った。江川さんにも、張本さんにもファンもいれば、アンチもいる。それでも、毎週、決まった時間にテレビのリモコンを押せば、登場してきたふたりの顔が見れなくなるのはやはり寂しい。それは、アンチでもあっても、のはず。
そんな時はぜひ、大事にしまったトレーディングカードを取り出して、現役時代の雄姿を見て欲しい。元祖「安打製造機」と呼ばれ、NPBだけで3000安打を達成した張本さん。元祖「怪物」と呼ばれ、あの大谷よりも、あの松坂よりも速かった快速球の江川さん。ふたりはいつまでも、トレカで元気に、カッコよくプレーを続けている。
Cove(ライター)