1枚のカードが、これまでも論じられてきたルーキーカードの定義についての論争を改めて、呼び起こした。この1枚はTOPPS「2021 Bowman’s Best」に封入されたワンダー・フランコ内野手(タンパベイ・レイズ)のカードで、トレーディングカードのプライスガイドで知られる、ベケット社がルーキーカードとして認めたのだ。
「これが正しいスポーツカードの集め方」(報知新聞社刊)には、ルーキーカードとは「その選手のカードで最初に発行になったレギュラーカードのこと。しかし必ずしもデビューした年に発行されるとは限らない。スター選手のルーキーカードと2年目のカードは3年目以降より高い値段が付くことが多い」と記されている。、1998年に発行された、カード収集初心者向けの名著である。ルーキーカードは、現在のカード収集において、市場価格を決める大きな要因のひとつになっており、ルーキーカード狙いでパックを開けるコレクターも多い。
「Bowman’s Best」はTOPPS社の定番ブランドとして1994年以来、人気を集めてきた。ベテラン選手とプロスペクト(有望選手)のブロックに分かれており、2021年版ではフランコ以外にも、ジェイソン・ドミンゲス、オースティン・マーティン、スペンサー・トーケルソン、フリオ・ロドリゲスらが含まれた。 2021年のMLBドラフトの上位指名6選手のうち、ヘンリー・デービス、ジャクソン・ジョーブ、マーセロ・マイヤー、コルトン・カウザー、ジョーダン・ロウラーの5選手も含まれる。彼らのカードをルーキーカードとして認める、とベケット社が発表した。
前述の選手のうち、物議を醸しているのが、フランコのカードである。
ベケット社では、独自のルーキーカードについての定義があり、コレクターたちに大きな影響を与えてきた。大前提は、ベース(レギュラー)のカードである、ということでインサートカードもサインカードもルーキーカードではない、という考え。さらに、プロスペクトと明記されたカードはルーキーカードにはならない。そして、セット自体がプロスペクトとルーキーだけの場合、そのセットはプロスペクトセット、マイナーリーグセットであり、そのセットのカードはルーキーカードではない。例えば、「Bowan Draft」にはルーキーカードは存在しない。
一般的に、ルーキーカードとして、最もわかりやすい判別方法に、ルーキーロゴマークがある。
2006年以降、MLB選手会とMLBは、メジャーに昇格した選手だけが、メジャーのセットでカード化できる、という決まりを作った。その選手の初めてのカードがルーキーカードになる、という認識も定着した。当時、TOPPSとUPPER DECKが分かりやすく、カードに付けたのがルーキーロゴマークだった。
だが、あくまで、各メーカーが独自につけるルーキーロゴマークだけに、たとえ、そのマークがついていても、ベケット社がルーキーカードとして認められていないものもある。
「Topps Now」や「Panini Instant」などオンライン限定製品もまた、ベケット社ではルーキーカードとは認めていない。昨年6月13日にMLB初昇格を果たし、6月22日に初出場した際の「Topps Now」をはじめ、フランコの「Topps Now」にはルーキーロゴマークに代わる、「CALL UP」という通しのマークがついている。
ほかのブランドも含め、TOPPS社のフランコのカードでルーキーロゴマークが付いているものは存在しない。「2022 TOPPS シリーズ1」のフランコのカードにはルーキーロゴマークがつくのかもしれない。TOPPS社も、フランコの真のルーキーカードはまだ、発行していない、という認識に違いない。今回のフランコの「Bowman’s Best」にはロゴマークはついていない。
実は2019年の「 Bowman’s Best」にもフランコのカードは封入されていたが、こちらはプロスペクトのブロックだった。今回の「 Bowman’s Best」がルーキーカードとしたのはベケット社が昨年、デビューしてから最初に発行されたベースカードと判断したから、なのだろう。
もちろん、2006年から「Boman」シリーズに封入される「1st Bowman」は厳密にいえばルーキーカードではないが、ルーキーカードと同じ価値がある、と見るコレクターも多い。それでも、「2019 Bowman Chrome」のフランコのサインカードは、ルーキーカードではない。
ところが、MLBカードで最高額の「1952 Topps」のミッキー・マントルはルーキーカードと言われるが、「1951 Bowman」が最初に登場したルーキーカードである。マントルのルーキーカードのように、ルーキーカードの定義はカードメーカーやコレクター、オークションハウスなどによって恣意的に操作されてきた例もある。
本来の定義に沿うルーキーカードのいい例では、デレク・ジーターのそれがある。1995年にデビューし、1996年にア・リーグの新人王に輝いたジーターだが、初のカードは1993年の「SP」、「Topps」、「Upper Deck」で、これらがルーキーカードとして広く認識されている。96年の「Score」、「Ultra」、「Select」のジーターのカードはルーキーと明記されているにもかかわらず、である。
ベケットはHPで今回のワンダー・フランコのルーキーカード論争について「それは我々の定義であって、すべての人が同じ定義に従わなくてもいい。今回のフランコのルーキーカードが他のカードよりも重要だったり、価値が高いことを意図したものではない。それはコレクターが決めること。人々が喜びと興奮を感じるものを集めるべき、と信じている」と説明している。つまり、ベケットの言い分は、ベケットとしては「2021 Bowan’s Best」のワンダー・フランコはルーキーカードとみなすが、最も人気のある最初に発行された「2019 Bowman Chrome」のサインカードをルーキーカードだと主張するコレクターがいてもいい、という。「ルーキーカードを巡る論議は、コレクターが自分にとって何が重要かを認識し、コレクションを形作るのに役立つだろう」と結んでいる。
あのベケットがルーキーカードと認めるなら、と従うコレクターも多いだろう。ボクにはこれはルーキーカードではない、と言い張る勇気はない。コレクターはこういう刺激的な出来事やお宝カードを待っている。
いずれにせよ、「2021 Bowman’s Best」のフランコのルーキーカードは高騰し、「2021 Bowman’s Best」のボックスも昨年版より1万円ほど高い価格ながら、なかなかの売れ行きを見せていることは事実である。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。日米のコレクションアイテムを収集して30年あまり。日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラーカードのコンプリと、日本人メジャーがメーン。