MLBロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手が4月10日、ついに今季1号アーチをスタンドにかけた。開幕から8試合、31打席目。テキサス・レンジャーズ戦で敵地グローブライフフィールドの右中間へ。「1番・指名打者」として、プレーボール直後の初球をとらえた。
三塁側ベンチでカウボーイハットを被せられ、ナインとハイタッチ。その華やかさと対照的だったのが、マウンドのマット・ブッシュ投手だった。その名前を聞いてピンとくる人はかなりのメジャー通である。36歳のベテラン右腕にとって、この日は自身のメジャー初先発。その記念すべき第1球を大谷に打たれてしまった。
このブッシュの経歴がいろいろな意味ですごい。超高校級遊撃手として、2004年のMLBドラフトでサンディエゴ・パドレスから全体1位指名を受けた。さらに、ドラフトの2週間後に、ナイトクラブで乱闘騒ぎを起こし告訴された。「コイツはかなりの大物になりそうだ」と思ったのはボクだけではないはず。多くのトレカが作られ、市場価格もかなり上がった。ボクもかなり、ブッシュのルーキーカードを買い漁った。
しかし、マイナ―リーグで実力発揮とならなかったブッシュは2007年のシーズン途中で投手に転向。ルーキーリーグで快投も、右ひじを痛め、トミー・ジョン手術を受けることに。リハビリ中の2009年には2年連続で酔っ払って問題を起こし、09年の春季キャンプ前にトロント・ブルージェイズへトレード。そのブルージェイズも4月に自由契約となってしまった。
翌年、タンパベイ・レイズとマイナー契約を結び、3年ぶりにグラウンドへ帰ってきたブッシュは心機一転。2011年にリリーフ投手として結果を残し、意気揚々と臨んだ12年の春季キャンプで、飲酒運転の果てにひき逃げ事件を起こし逮捕。3年間を刑務所で過ごす。
トライアウトでも受けたのだろうか?出所して2か月後の2015年12月にレンジャーズとマイナー契約。半年後の2016年5月に自身初のメジャー昇格。セットアッパーとして58試合に登板して7勝2敗1セーブ、防御率2.48という成績を残した。
ところが、まだまだ、ドラマは続く。翌2017年も57試合に登板し、守護神として10セーブを記録したがオフに右肩を手術。さらに2019年には2度目のトミー・ジョン手術を受け、昨季、ようやくメジャー復帰となっていた。
ブッシュが大谷に投じた1球は95.9マイル(約154キロ)。この男は不死身なのか?大谷に一発は食らったが、続くトラウトら3人の打者を連続三振に打ち取った。
NHKのBS中継を見ていたが、ブッシュの経歴についてはアナウンサーも解説者も触れなかった。もしかして、触れてはいけない過去だったからだろうか?
ボクが集めたブッシュのル-キーカードはひき逃げ事件を起こした時点で「ストレージボックスの肥やし」(タンスの肥やしみたいなもの)になり、行方不明になり、捜索願も出していない。ただし、1枚だけ手元にあるのが、2004年のUPPER DECK「SP Prospects」のブッシュと、ノマー・ガルシアパーラ遊撃手のコンボサインである。ガルシアパーラのユニホームがシカゴ・カブスであるのは気に入らないが、ガルシアパーラだから、残っていた。そして、サンディエゴのカードショップで購入したパックから自分で引き当てた数少ないブッシュのカードの1枚だった。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。バブルヘッドのコレクションが自慢で日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラカードのコンプリと日本人メジャーが中心。