ボクがトレーディングカードを集め始めたのは90年代はじめのことである。米国に出かけた会社の先輩がお土産に買ってきてくれた「Topps」の野球カードがきっかけだった。。1か月遅れで日本に入ってくる「Beckett」や「Tuff Stuff」のカードショップの広告を見てファックスを送り、カタログを送ってもらう。ファックス番号がなければ、エアメールを送る。
日本にも「Jo`s Card Shop」をはじめとしたカードショップが増え始め、そこで、ちょっぴり高額ながら、野球カードがパックで購入できるようになった。そうなると、次はレアカードが欲しくなる。30年前はサインカードなんて夢のような話である。インサートでも出れば大喜び。それもそのはず、当時のインサートは名作も多かった。
トレカをゲットする方法はインターネットの普及とともに劇的に進化した。エアメールはeメールにとってかわり、米国のカードショップもまるで近所にあるように身近になる。そして、ネットオークションである。コレクターにとって「eBay」は神だった。米国各地でカードショップやカードショーを巡ってようやく探し当てたお目当てのカードが、キーボードをたたくだけで見つかるのだ。だが、そこはオークション。入札に熱中するとやめられない。ある意味、悪魔のような存在でもあった。
その「eBay」で落札したのが、伊良部秀輝投手の「2000 Upper Deck」の1 of 1である。このカードには確か、10ドルも払っていない。ニューヨーク・ヤンキースからモントリオール・エクスポスにトレードされた、この年の伊良部のカードは渡米した直後に比べれば、人気はかなり落ちていたとはいえ、10ドルである。その理由は「Hideki Erabu」の名前で出品されていたからである。記憶に間違いなければ、当時は今のように選手名などで表記が似た商品がピックアップされることはなかった、と思う。伊良部マニアだったボクは「Hideki」で検索して、この1枚を見つけた。今なら「Irabu」で検索すれば「Erabu」もヒットしたはずである。
日本人メジャーリーガーのトレカで日本語のサインがぞんざいに扱われていたことは以前、この連載で書かせてもらった。「井川慶」が「川慶」になっていたり、「吉井理人」がさかさまになっていた。メーカーだけれなく出品者=米国人コレクターのローマ字表記もいい加減だった。そのおかげで、世界に1枚しかないカードを手に入れることができたのは皮肉なものだ。
ほかにも「eBay」で見つけた、かなり珍品の伊良部カードがある。厳密にいえば、カードというのは間違いであるが、20年前にあった「Pacific」というカードメーカーのカード用の写真ネガである。これが実際にカードになったか、は不明だが、「Pacific」が消滅した後に、メーカーから流出したものだろう。スペイン系メーカーながら、MLB以外のスポーツカードも作ってコアな人気を集めていた。ダイヤモンドのようにカットされた「Cramer’s choice」は今でも高額で取引されるレアなダイカットインサートである。このネガは4枚セットでたったの30ドル。伊良部マニアにとっても「eBay」は神だった。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。バブルヘッドのコレクションが自慢で日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラカードのコンプリと日本人メジャーが中心。