発売されたばかりのUpper Deck「2021 UPPER DECK Skybox Marvel Spider-Man Metal Universe」の Hobby Boxが売れている、という。トレーディングカードの「Metal」ブランドはFleer社が制作していた時代のスポーツカードでも30年近く前から人気で、とくにNBAの「Metal」は現在でも高い市場価格で取引されている。中でも、色違いの「Precious Metal Gems (PMG)」は伝説ともいえる存在だろう。「PMG」はかつての「Ultra」などのブランドにも封入されていた。
米大手オークションハウス「Goldin Auctions」にもこれまで多くの「PMG」が出品され、高額で落札されてきた。今年6月にはマイケル・ジョーダン(シカゴ・ブルズ)の「1997-98 Skybox Metal Universe」の「PMG」100枚限定のレッド版(BGS7)が450,000ドル(約6,000万円)で取引された。
さらに、6月には「2013 Fleer Retro Marvel」のスパイダーマンの「PMG」10枚限定グリーン版(BGS9)が168,000ドル(約2,200万円)で落札された。
そんな「PMG」だが、先日、ちょっと変わった1枚がGAで落札された。この1枚は「2017 Fleer Ultra Spider-Man Marvel」に封入されたモーランの5枚限定パープル版(PSA8)である。モーランと聞いてわかる人はかなりのマーベルマニアに違いない。2001年に発行されたアメコミ「アメージング・スパイダーマン」の第2巻の30話に初登場した悪役で、生物のパワーを吸い取り生きている、という。スパイダーマンの蜘蛛のパワーを奪いに来て倒されたが、復活して、スパイダーマンに瀕死の重傷を負わせる。吸血鬼と表現する場合もあるらしい。
このモーランの「PMG」は日本からミントの出品代行サービスを通じてオークションにかけられ、5,700ドル(約77万円)で23件の入札の末、落札された。もちろん、ジョーダンの「PMG」に比べれば、その落札額は比べものにならないかもしれない。モーランと戦ったスパイダーマンの落札額に比べても然り。だが、モーランの「PMG」が出品されるまでの経緯を知れば、驚くに違いない。
トレカを収集して25年以上のこの出品者の男性は、NBAのトレカからスタートし、今では野球、ホッケー、アメフト、さらにはノンスポーツまであらゆるジャンルのトレカを収集している。ただ、ボックスではなく、パックでの購入が中心で、都内のカードショップを巡り、パック開封を楽しんでいる。カードショップではストレージボックスのレアカードを探すことも彼のルーティン。モーランの「PMG」は、あるショップのストレージボックスから発掘された。
「知らないキャラクターだったのですが、PMGだったので、1枚は持っておこうかな、ぐらいの気持ちだったのです。何枚か、ミントさんの出品代行サービスにお願いする時に思い出して持っていったら、とんとん拍子に話が進んで、こんな結果になりました」と出品者はすまなさそうに話す。なぜなら、カードショップでは1,000円に満たない、数百円の価格で購入したから、だという。けっして、最初から転売目的ではなく、コレクターのひとりとして「PMG」を持っていたかった、という理由で支払った数百円が77万円になるのだから、ドラマのような話である。
GAに出品する理由はさまざまだ。好きな選手だから、応援しているチームの選手だからストレージボックスに入れて大事に保管していたカードが、世界を相手にした市場でどんな評価を受けるのか、聞いてみたい。ストレージボックスにコモンカードとして入れておいたカードの価値が見直されたので、売りたい。トレカ収集をやめたので、処分したい、という元コレクターもいるかもしれない。
モーランが、万人の知るキャラクターではなかったこと、ストレージボックスに隠れていたこと、そして、PSA鑑定で8という高評価がついたこともラッキーだった。まさに「PMGの奇跡」と呼ぶべき出来事だろう。だから、カードショップ巡りも、カード収集もやめられない。今回の出品者の男性は、会社が休みの今日もカードショップを巡っている。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。バブルヘッドのコレクションが自慢で日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラカードのコンプリと日本人メジャーが中心。