昨年12月に1枚の珍カードが827,000円で落札された。
このカードの市場価格を、オークション結果検索サイト「オークファン」で過去10年間の落札履歴を調べると、2020年11月に同じカードのPSA9が1,000,000円で落札された記録が最高額で、今回のPSA7はそれ以来となる出品で、その時に続く落札額となった。
珍カードであり、幻のカードでもある。1995年に作られたこのカードのデザインは、UPPER DECK社の「Collector`s Choice」のものである。2001年に渡米してシアトル・マリナーズに移籍し、MLBでもスーパースターの階段を駆け上がるイチローだが、この時はまだ、オリックス・ブルーウェーブに所属。イチローのカードを米国メーカーのUPPER DECK社が作れるはずがないのである。
しかし、このカードを見ると、イチローは私服で、バスケットボールを持って、スマイルを見せている。このシーンは、1994年11月にNBAの日本開幕戦となる、ロサンゼルス・クリッパーズとポートランド・トレイルブレイザーズ戦が開催された横浜アリーナで撮影された。NBAファンでも知られていたイチローはこの試合に招待されて観戦。UPPER DECK社のカメラマンが関係者を撮影してプロモーションカードを作成し、それぞれの関係者に贈った、といわれている。
100枚が作られたというこのカードは、イチロー本人がさらに近い友人、知人にプレゼント。そのうちの数枚が市場に出回った。約20年前に、ある米国人コレクターから2万円で譲りたい、という申し出を受けたが断った。その翌年にはショップでこの1枚を2万5000円で見たボクは購入するか、迷った末に見送った。当時、2万円のトレカはかなりの高額だったことと、そのうち、価格も下がって、何枚も出てくるだろう、とタカをくくっていた。
そして、イチローの才能さえも見誤っていたのである。「ヤフオク!」では昨年11月にBBM「2000 Diamond Heroes」のバットカードが立て続けに84万5000円、80万円で落札された。昨年、始球式で剛球を披露したイチロー本人と同様に、その人気は衰えを知らない。
ちなみに、イチローのバスケットボールを持ったプロモカードは現在、PSAでは鑑定をしていないらしい。鑑定されたカードの価値は今後、何倍にも何十倍にもなっていくのである。
「一期一会」とコレクターは言う。その意味は「一生に一度だけの機会」「生涯に一回しかないと考えて、そのことに専念する」で、もともとは茶道の心得を表した言葉で「どの茶会でも一生に一度のものと心得て主客ともに誠意を尽くすべき」ことをいうらしい。
1年ぶりに「ヤフオク!」に登場したイチローのレアカード、さらに、20年前と40倍以上になったその落札額を見て、苦い思い出がよみがえってきた。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。バブルヘッドのコレクションが自慢で日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラカードのコンプリと日本人メジャーが中心。