「第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」は日本代表侍ジャパンの3大会ぶり3度目の優勝で幕を閉じた。その準決勝の対メキシコ代表戦で始球式を行ったのが、第1回、第2回のWBCでMVPに輝いた松坂大輔さんだった。
「平成の怪物」と呼ばれた松坂さんはドラフト1位で西武ライオンズに入団した。ルーキーイヤーから、その活躍はみなさんもご存じの通り。スポーツ新聞社で遊軍記者だったボクは、自宅から一番近い野球場が西武ドームだったこともあり、ライオンズの試合の取材の手伝いに行くことが多かった。98年まで米国に駐在してドジャースの野茂英雄さん、ヤンキースの伊良部秀輝さんを取材してきたボクにとって、一番、気になっていたのは、松坂さんのルーキーカードがいつ、発売されるのか、ということだった。
今でこそ、トレカの定番となったBBM「ルーキーエディション」だが、誕生は2003年。2000年からBBM「プレビュー」というブランドでドラフト1位指名選手が収録されたのがその前身で、1999年の「プレビュー」には新人選手はリストアップされていなかった。エポック社もまだ、NPBのトレカ事業には本格的に参入しておらず、オンデマンドカード「Epoch One」もない。
そうなると、まだ「1st バージョン」「2nd バージョン」に分かれていなかった「BBM」か、カルビー「プロ野球チップス」となる。首を長くして待っていたボクを驚かせたのが、この「弁当カード」だった。
野球場で売られている弁当は若干、割高である。それはしょうがないとしても、この「松坂大輔弁当」は確か、1,500円を超えていた記憶がある。報道陣は試合前の練習終了からプレイボールまでの間で、バックネット裏のビクトリーロードの一番上にある記者席で食事をとる。ほとんどの記者は、球場に隣接するレストラン「獅子」で作られるメニューをいただくのであるが、ボクは球場内の売店で「松坂大輔弁当」を買う。松阪牛のステーキは入っていなかった(はずだ)けど、なかなかの美味しさ。そして、弁当に入っていたカードが目的だった。
しかし、これがなかなか、コンプリートできない。カードにとくにナンバリングがないため、ゲットしたカードから予想するしかないのだが「大輔(DAISUKE)」にちなみ「DA」「I」「S」「U」「K」「E」の6種類があったようだ。記者席はガラスばりでスタンドのファンから丸見えである。弁当のフタを開けて、ガッツポーズをとったり、ガックリと肩を落とすボクの姿はファンからはきっと、奇異に映っていたはずだ。
正式な名称は「ミレニアム・コレクション・カード」。裏面は白紙だが、表の写真はなかなかのチョイスである。写真はキャンプやオープン戦のものだったろうが、投球フォームあり、笑顔あり、楽しませてくれる。松坂さんの弁当は福岡ソフトバンクホークス時代にも球場で販売されたが、カードは封入されていなかった。
この年の西武球団に、トレカに詳しい職員がいたのかもしれない。開幕前に配布されたトレカサイズの「西武ドーム完成」プロモには松井稼頭央、西口文也、小関竜也に加えて、松坂の写真も並び、松坂の「ファーストカード」となった。ボクは大騒ぎして記事にしようとデスクに売り込んだが、まったく、相手にされなかった。
選手が自分のカードをファンに配る「オリジナル・プレーヤー・カード」もあった。松坂のカードもあったが、ファンが殺到すると予見し、事故を防止するため、松坂の手で配布されることはほとんどなかったはずだ。1999年、西武ドームで配布されたカードたちは、トレカでも紡いだ「平成の怪物」の伝説の幕開けだった。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。バブルヘッドのコレクションが自慢で日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラカードのコンプリと日本人メジャーが中心。