大谷翔平が50/50を達成した9月19日、ボクは米国にいた。
残念ながら、フロリダのローンデポ・パークではない。ロサンゼルス郊外のオンタリオにある、ビクトリア・ヴィレッジというアウトレット。そこにあるドジャースショップで、3日後に訪れるドジャースタジアムでのドジャース戦に備えて、ドジャースの今年のシティコネクト・キャップを購入していたのだ。
大谷がホームランを打ったことはショップのモニターで観た。まさか、2本も3本も本塁打を打つなんて、思っていなかった。大谷本人にも、日本のファンにも申し訳ないのだが、できれば、3日後に目の前で、MLB史上初の大記録を達成してほしいなんて贅沢なことを考えていた。いや、祈っていた。
翌日のことである。この日もまだ、ロングビーチのモーテル周辺の古着屋やスリフトショップ巡りで、掘り出し物のTシャツを探して、夜にモーテルに戻ってきた。ここで、日本の知人から「LAタイムズ、買った?」とLINEが来ていたのにようやく、気が付いた。日本でも、大谷の50/50を伝える地元紙の「ロサンゼルス(LA)タイムズ」が話題になっていた。
歴史的な偉業を報じる歴史的な新聞を手に入れなければ…。急いでモーテルの道路を挟んで真向いにあるガソリンスタンドへ走った。毎日、20ドル分だけ給油してコーヒーを買っていくボクはこのスタンドのおばさんとすっかり、仲良くなっていた。旅行者はもらえることがないであろうポイントカードまで作ってくれた。これが、どれだけ、ポイントがついて、どう使うのか、さえ、わかっていないのだが…。
夜はそのおばさんのご主人が店番である。「LAタイムズはある?」と聞くと「新聞はおいてないよ。知ってるだろ」と即答されたが、そんなことは知らない。近くのガソリンスタンドを紹介され、大きな道路を横切っていくと、黒人の太ったお兄ちゃんが笑顔で出迎えてくれたが、ここにもLAタイムズどころか、新聞さえない。このお兄ちゃんに「ワンブロック先にコンビニがあるよ」と教えてもらってまた、走る。
ロングビーチの夜は暗い。大通りでも暗い。モーテルに戻ってレンタカーで行けばよかったのだろうが、動転していてそんなことは気が付かない。謎の日本人のオヤジがロングビーチの暗い道を走る。走らないと怖い。きっと、その激走を観ていたら、その人も怖かったろう。
コンビニに到着。ドアのすぐ横にLAタイムズがあった。しかも、1部だけ。残り物には福がある、なんて鼻歌を歌いながら、レジの東南アジア系のおじさんにLAタイムズを差し出して購入。これを探してここまで走ったなんてばれないように、ちょっぴり、余裕を見せながら。
東海岸と西海岸に時差があることもあり、LAタイムズは、日本でいうところの「早版」である。大谷の「51-51」は、特別、大きな見出しで伝えているが、試合のボックススコアは間に合わなかったらしい。というわけで、数時間だけ眠って、早朝にそのコンビニに走り、翌日のLAタイムズを購入した。
後日、日本メディアの報道で、「51-51!」の大きな見出しはLAタイムズ社でも極めて珍しい大きさだった、ということを知った。何やら、OJシンプソンが裁判で無罪になった時の紙面以来らしい。翌日の新聞もいい写真を使っている。この2日分の新聞は飾らなければ、と思った。
日本の新聞とは違う細長いサイズのため、日本に戻り、「LOFT」でフレームを作って、額装してもらった。トレーディングカードもいいが、これもなかなかのコレクションアイテムである。忙しくて受け取りにいくのに時間がかかったが、2か月ほど待った甲斐がある出来栄えだった。
自宅の壁にワイヤーで吊り下げた。それは、千葉ロッテマリーンズが佐々木朗希のポスティングを認めた日だった。来年は「ROKI SASAKI」のLAタイムズが新しいコレクションに加わるかもしれない。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。バブルヘッドのコレクションが自慢で日本唯一のボブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラカードのコンプリと日本人メジャーが中心。