背番号51が打席に立った。MLBシアトル・マリナーズで会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチローさんが3月7日、春季キャンプ地のアリゾナ州ピオリアで行われたシュミレーションゲームに出場した。シュミレーションゲームとはNPBの春季キャンプでいうところの紅白戦で、出場選手の数が限られているため、人数合わせで参加。左腕のマルコ・ゴンザレス相手に左飛に倒れたが、本気モードで右翼の守備位置にも。同じくインストラクターのマイク・キャメロンさんとかつてのゴールデングラブ賞コンビが復活し、ファンを沸かせた。
現役を引退して2年。イチローさんの人気は健在だ。今年も野手組が合流した2月23日に一緒にキャンプイン。選手と一緒に練習をこなし、若い選手相手に打撃投手も務めるなど精力的に動いた。そして、練習後には悲喜こもごもの報告があった。
現役を引退した2019年の夏に愛犬の柴犬「一弓(いっきゅう)」が17歳で天国に召された。名前の由来は「一朗」の「一」と弓子夫人の「弓」。2001年に生まれ、02年からイチロー家の家族になった。日本での引退会見でもイチローさんがその存在の大きさを語ったほどの愛犬だった。柴犬の寿命は12歳から15歳といわれており、イチローさんの引退を見届けてからの17歳は天寿をまっとうしたのだろう。
その後、「一弓」の祖父「長天坊」の血統を継ぐ1歳の姉弟が新たに迎えられた。イチローさんは姉を「姫弓(ききゅう)」、弟を「天朗(てんろう)と命名。今回の春季キャンプにも一緒に連れてきた、という。
MLB2年目の2002年から、グラウンドで戦うイチローさんを時に癒し、時に励ました「一弓」。イチローさんと「一弓」が描かれたトレーディングカードがある。
TOPPSが公式HPで限定販売した「PROJECT 2020」。新旧のスーパースターのルーキーカードを著名な現代画家やストリートのアーチストらが大胆にデザインをリニューアル。3日間の期間限定で申し込まれた数しか制作しない。イチローさんのRCも20人のデザイナーにリデザインされ、昨年8月24日から26日まで受け付けられたのが「一弓」が書き込まれたカードだ。発行枚数は3924枚。ほかの「PROJECT 2020」と比較してもまずまずの枚数だった。担当した「Efdot」は斬新な色使いが特徴のアーチスト。好評のデザインで「PROJECT 2020」に続く、TOPPSのMLBトレカ発行70周年を記念した新企画「Project 70」でも採用された。
この「Efdot」は「一弓」を登場させるあたり、かなりのイチローマニアと見た。カードを見ると、カードの中心にいるイチローさんより、「一弓」に目がいってしまうのはなぜだろう?在宅ワークが増えたボクが保護猫の姉妹を引き取ったばかりだからかもしれない。ボクもふたりの姉妹に癒され、励まされている。
ちなみに、カードコレクターなら知らない人はいない「弓子夫人」カードもある。1997年の「PINNACLE INSIDE」のサブセット「EAST MEETS WEST」の1枚だ。96年の日米野球で来日したMLB選抜チームの様子をカード化したもので、西武球場(当時)の試合前にアレックス・ロドリゲスにインタビューするTBSアナウンサーの旧姓・福島弓子さんが写っている。
95年からMLB担当となり米国で野茂英雄さんを取材していたボクも帰国して、この日米野球を取材。西武球場の試合前のベンチにいたが、カードには写っていない。
95年のラジオでの共演をきっかけに、弓子さんは99年にイチローさんと結婚する。弓子さんがイチロー夫人になってから、このカードを思い出したボクはその年、ロサンゼルス郊外にあるトレカショップ「バーバンク・スポーツカード」で「弓子さんカード」を買い漁った。
バックヤードに何百ものモンスターボックスにシングルカードが保管されているスポーツカードのスーパーマーケットとして知られるこのショップ。95年から通い続けて、すっかり、常連になっていたため、スタッフオンリーのバックヤードに特別に入れてもらい自分で探したことを思い出す。つたない英語で説明したが、店長も、店長のお父さんも、お母さんも笑われた。そりゃ、そうだ。他人の奥さんのトレカを買ってどうすんだ。
新型コロナの影響で昨年は年1回の渡米ができなかった。今年もかなり厳しいだろう。ああ「バーバンク」に行きたい。そこに「一弓カード」はあるのだろうか?
天国の「一弓」に、合掌。
Cove(ライター)
国内外のコレクターアイテムを収集して30年以上。ベースボールのバブルヘッドのコレクションの量と、そのどうでもよい内容は日本でも屈指と自負している。元スポーツ紙ライター。