米国大手オークション「ゴールディン」は5月23日、ホーナス・ワグナー内野手(ピッツバーグ・パイレーツ)の1909‐11「T206」が3,715,000ドル(約4億493万円)で売買された、と発表した。「ゴールディン」のHPではオークションの落札額を3,660,000ドル(約3億9894万円)としており、発表した額は手数料などを含めた取引合計額とみられる。「ゴールディン」では同じものが昨年11月に1,400,000ドル(約1億5250万円)で売買されており、半年で2倍以上になった。
トレーディングカードが近年、高騰する以前からワグナーの「T206」はトレカの最高額を次々に塗り替えてきた。トレカ界の「「モナ・リザ」と呼ばれ「サザビーズ」「クリスティーズ」など、美術品も出品される有名オークションにも出品されたことで、トレカの地位を上げた。また、初めて1億円を超えたトレカとされ、これまでのオークションでの最高額は2007年に「SCPオークション」にて記録された2,350,000ドル(約2億8500万円)で、ギネスブックにも掲載された。
NHLのレジェンドであるウェイン・グレツキーが保持していたことで付加価値がつき、「グレツキーT206ワグナー」と呼ばれるものは、MLBダイヤモンド・バックスのオーナーであるケン・ケンドリック氏が2007年に個人売買で2,800,000ドル(約3億520万円)を支払い、購入した。
この「グレツキーT206ワグナー」は何人かの手に渡ってきたが、カードの状態をよくするためにトリミングされていることが明らかになり、騒動になった。しかも、詐欺事件で司法取引された情報のひとつとしてそのトリミングを容疑者が明かした、という。
さらに、アンカットシートから裁断する際に、通常のサイズより若干、大きくカットされ「ジャンボ・ワグナー」と命名されたものは、昨年10月に3,250,000ドル(約3億5425万円)で個人売買され話題を集めた。米国バーモント州に住む女性が父親の死後、遺品を整理していて発見。取引を仲介した「マイルハイ・カードカンパニー」という業者が明らかにした。
「グレツキーT206ワグナー」は最初にPSA鑑定を受けたトレカで8点の評価を受けている。「ジャンボ・ワグナー」もPSA鑑定を受けており、評価点は5。今回の4億円の取引額がついたものはPSA2と評価点は劣るが、その希少性と、時代の流れが今回の最高額を呼んだ。
「ゴールディン」の創設者でもあるケン・ゴールディン氏によると「これまでに認証されているワグナーのカードは60枚未満。そのカードの数少ない所有者はその価値を理解しており、売りに出すことはめったにない」という。希少性はワグナー自身が販売を差し止めたために起きた。その理由については、「T206」がタバコのおまけとして作られたため、ワグナーが大切にしている子供ファンへの悪影響を心配したという説、たばこ会社からの報酬が少なかったことに怒ったという説、たばこ会社がワグナーに無断でカードを作成したことを許さなかったなど様々な説がある。
ワグナーは「史上最高の遊撃手」と言われ、通算3420安打を記録。タイトルは首位打者8回、打点王5回、盗塁王5回に輝いた。1936年に初めて決まった野球殿堂入り選手のひとりでもある。現役時代のユニホームには背番号がなかったが、コーチとして復帰した際に着けた「33」はパイレーツの永久欠番になった。
野球トレカの最高額はミッキー・マントル外野手(ニューヨーク・ヤンキース)のルーキーカードで、今年1月についた5,200,000ドル(約5億4600万円。それには及ばなかったが、それにしても、なぜ、ワグナーの「T206」にこれほどの価格がつくのか。それは「トレカの象徴」としてのネームバリュー、売買をめぐる歴史とストーリー性がその背景にあるようだ。
トレカジャーナル編集部