東京五輪が開幕して連日、午前中からテレビを観ているのは贅沢な生活である。しかし、NHKでMLB中継がなくなったのはかなり悲しい。夜の「ワースポMLB」までお休みになってしまった。オオタニサンの本塁打をネットでチェックすると、スタンドには多くの観客が戻っている。マスクもせず歓声と拍手を送り、きっと、7回には「Take me to the ballgame」を合唱していることだろう。野球と音楽は切っても切れない関係にある。試合中のBGMだけでなく、スタジアムでライブを開催する有名ミュージシャンも多い。野球選手がミュージシャンになっちゃうこともある。今回は、楽器を持ったバブルヘッドを集めてバンドを組んでみた。もちろん、バンド名は「バブルヘッズ」である。
ド派手なBGMばかりでなく、かつて、いくつかの球場ではプレーの合間、攻守交替の時などはオルガンが弾かれていた。MLBシカゴ・ホワイトソックスのセルラーフィールドでの名演奏で観客を楽しませていたナンシー・ファウストさん。NBAやNFLの試合にも呼ばれる人気オルガニストだったが、時代の流れもあり引退。その後、シカゴ・カブス傘下(現在は独立リーグ)だった1A球団のケーン・カウンティ・クーガーズで復帰した。2014年に本拠地のノースウエスタン・メディシン・フィールドで配布されたSGAはクーガーズのユニホームを着て左手を鍵盤に置きつつ、観客に向かって振る右手も揺れる。
野球場でライブを行うミュージシャンとして知られるのがビリー・ジョエルだろう。バブルヘッドもフェンウェイ・パーク(ボストン・レッドソックス)、ブッシュスタジアム(セントルイス・カージナルス)、ベテランズ・スタジアム(フィラデルフィア・フィリーズ)、さらにはNHLニューヨーク・アイランダースの本拠地UBSアリーナでのライブの様子がそれぞれの球団でバブルになっている。「ピアノマン」と呼ばれるジョエルはもちろんピアノと一緒。試合前か、試合後のライブだったのかは不明だが、フェンウェイ・パーク版にはボクも取材で座らせてもらったことがあるバックネット裏上部の記者席の写真が背景として付属している。
次のビッグネームはカントリーの大御所、ウィリー・ネルソンである。2015年にMLBテキサス・レンジャーズ傘下(当時)の3Aだったラウンドロック・エクスプレスが配布。赤いバンダナも、リアルヘア(繊維)のおさげも完璧に再現され、あのしわがれた歌声が聞こえてきそうな出来栄えだ。
2016年にMLBミルウォーキー・ブルワーズ傘下の1Aウィスコンシン・ティンバーラトラーズが配布したフォーク歌手、コーリー・チーゼルのバブルヘッドは、ブラウンのギターに加え、黒いギターのパラレル版も存在する。パラレル版はeBayでも通常版の5倍以上、200ドル(約2万2000円)前後で売買されている。チーゼルはグラミー賞にもノミネートされた経験もあるフォーク・ロック歌手。ハットがかなり、カッコいい。
3人組のバンドのバブルヘッドもある。「ザ・バンド・ペリー」はボーカル&ギターの姉・キンバリーとベースの弟・リード、マンドリン&バックコーラスの弟・ニールの3人姉弟で構成されるカントリー・ミュージック・グループ。見れば見るほど、3体の顔はそっくり。残念ながら、キンバリーのギターが折れてしまっているが、思わず微笑んでしまう出来なのだ。ヒューストン・アストロズ傘下のルーキー・リーグ球団、グリーンビル・アストロズが2012年に配布した。テネシー州にあるグリーンビルはペリー3姉弟にとっては生まれ故郷。グリーンビル・アストロズが試合で、地元のヒーローを讃えるイベントを企画し、当日は本人たちも参加した。
2017年に現役引退したC.J.ウィルソン投手はテキサス・レンジャーズ時代の08年にミュージシャンのようなバブルヘッドが作られた。Tシャツ姿で、手にしたギターの「RANGERS」の文字とチームロゴがなければ通算94勝を記録したサウスポーとは思えない。09年には5勝6敗14セーブ、19ホールドをマークしたリリーフだったが翌年、先発に転向すると5年連続2ケタ勝利。12年には大型契約でロサンゼルス・エンゼルスに移籍した。以前、NHK「ワースポMLB」で引退後に自動車ディーラーとしても成功し、カーレースにも挑戦していることが放送されていた。
趣味が高じて本業になったのは前ニューヨーク・ヤンキースのバーニー・ウィリアムス外野手だ。1998年には首位打者にも輝いた「レジェンド」は三拍子そろった攻守走でヤンキースタジアムを沸かせた。イチローがヤンキースに移籍した際に打診を受けたウィリアムスがかつて着けていた背番号「51」をその偉大さから辞退し「31」になったのは有名なエピソード。まだ現役だった03年にCDデビューを果たすなど、ギターは趣味の域を越えており、引退後にはミュージシャンに。19年にヤンキース傘下の2Aトレントン・サンダーが配布したボブルヘッドで着ているサンダーのユニホームの背番号はもちろん「51」である。
まだゲットできていないが、ジャイアンツが配布したカルロス・サンタナ、チャック・ベリー、そして、いくつかの球団が作ったジミー・ヘンドリックスなどギターのバブルヘッドは多いが、MLB関連でドラムのバブルヘッドは珍しい。エバン・ロンゴリア(サンフランシスコ・ジャイアンツ)はタンパベイ・レイズ時代に球場にドラムセットがあって、激しく叩いてから試合に臨んでいた、という。打席に入る前にはヘビメタの曲がかかり、スタンドのファンはそれに合わせてカウベルを鳴らしていた。2014年にレイズが配布したバブルヘッドはドクロマークのタンクトップでドラムを叩く姿を再現。かつては、ロサンゼルス・ドジャースで野茂英雄さんとバッテリーを組んで日本でも人気があったマイク・ピアザ捕手のドラムが知られていたが、こちらはバブルヘッドになっていないだけに、ロンゴリアのバブルヘッドは貴重だ。
太鼓はクリーブランド・インディアンスの本拠地、プログレッシブ・フィールドの右翼席最上段に陣取るジョン・アダムスさんだ。インディアンスの攻撃中に太鼓を鳴らし、スタンドを盛り上げる「応援団長」は球団スタッフではなく、熱烈なファン。昨季の無観客試合をのぞき、1973年の夏からほぼ毎試合で太鼓(ドラム)を叩いてきた。70歳のアダムスさんは昨年12月に心臓の手術を受けたため、今年の本拠地開幕戦ではロックバンド「ザ・ブラック・キーズ」のドラマー、パトリック・カーニーが代役を務め、話題を集めた。アダムスさんのバブルはインディアンスが配布したものがなかなか、オークションにも出てこない幻の逸品として有名だが、販売されたものもある。
「ザ・バブルヘッズ」の主要メンバーはそろったので、バックダンサーも用意した。サンフランシスコ・ジャイアンツ傘下のA+、フレズノ・グリズリーズにはイニングの合間にグラウンドを整備する「ザ・ドラッグ・キングス」がいる。ちょうど、ヤンキースタジアムの整備員のみなさんが整備の合間に「YMCA」を踊るようなパフォーマンスをするらしい。その「ザ・ドラック・キングス」の腰振りダンスを再現したのが、グリズリーズ配布のバブル・ウェイスト。1体では寂しいので2体、並べてみた。本当は3体、欲しかったけど…。
Cove(ライター)
国内外のコレクションアイテムを収集して30年余り。バブルヘッドのどうでもいい知識とそのコレクションで「日本でただひとりのバブルヘッドライター」を自称する。保護猫の姉妹を引き取り在宅ワーク中。