かつて「ハンカチ王子」と呼ばれた、北海道日本ハムファイターズの斎藤佑樹が現役引退を発表した。
早実では甲子園の決勝戦で、駒大苫小牧の田中将大と投げ合い延長15回引き分け再試合の末に優勝。早大でも東京六大学リーグで通算31勝15敗、防御率1.77、323奪三振を記録し史上6人目の30勝と300奪三振を達成。リーグ戦はし1年春秋、2年秋、4年秋に優勝を飾った。
高校時代、マウンドで青いハンカチ(タオル?)をズボンのポケットから出して汗を拭く姿から「ハンカチ王子」と呼ばれた。確か、命名したのは報知新聞の整理部員だったはずだ。整理部は、新聞社でレイアウトや見出しをつける部署である。
ドラフト会議では東京ヤクルト、福岡ソフトバンク、千葉ロッテと1位で競合し抽選の末、ファイターズが交渉権を獲得。ルーキーイヤーに6勝し、19年までに通算15勝26敗、防御率4.34。ここ2年間は登板がなかった。華々しかったアマチュア時代に比べ、プロでは決して活躍した、とは言えないが、一世を風靡したスター選手だったことだけは間違いない。「高校から直接、プロに入っていれば」とか、「プロで違うチームに入っていれば」とか、好き勝手なことを言う人がいるが、そんなことは今となっては、どうでもいいことである。
斎藤はトレーディングカード界にも大きく貢献した。大学時代にはBBMが「東京六大学セット」を制作し、入団会見で初めてファイターズのユニホームに袖を通した写真を使ったプロモカードも人気があった。もちろん、ルーキーカードも注目された。
ボクも「ハンカチ王子」にハマったミーハーなファンのひとりだった。「大学に進学します」会見の時には、あー、ルーキーカードはあと4年、待たないといけないのか、とガックリしたのを覚えている。
ところが、である。斎藤が早大1年だった2007年、「eBay」で、YUKI SAITOのサインカードが出品されていた。大学日本代表に選出されて、米国で開催された日米大学野球選手権に出場した時にペンを走らせたものだった。UPPER DECK社の「UPPER DECK USA」という米国の各年代の代表選手を集めた人気ブランドに、サブセットとして、日本代表の選手もサイン、ジャージー、パッチカードが封入されたのだ。最初に頭に浮かんだのが思ったのが、これって、本当に許可を得ているのか?斎藤をはじめとした日本代表の選手たちは騙されてサインしちゃったのではないか?という疑問だった。
その存在が明らかになる前に、騒動になる前に、これは落札しなければいけない、と思った。確か、その時点でもう200ドルまで入札額は上がっていた。入札終了まであと2日。ところが、問題が発生した。翌日、ロサンゼルスへ、ドジャースの斎藤隆のボブルヘッドをもらいにいく弾丸ツアーを計画していた。今でも変わらないおバカなツアーである。オークションは入札終了10分前からが勝負。その時間帯は飛行機に乗って空の上にいて入札できない。大韓航空で機内食とは思えない美味のビビンパを食べている時なのだ。
やむを得ず、知人に事情を説明して、ボクのIDで入札してもらうことに。ロサンゼルス空港に到着して、すぐに「eBay」にアクセスしてみると、見事に落札。しかも、知人に伝えた限度額以内で。いい仕事をしてくれた。グッジョブ!と空港の駐車場でひとり、ガッツポーズして、変な目でみられた。
しかし、これで話は終わらない。ロサンゼルスの郊外で水曜日と土曜日に開催される「FRANK & SONS」というカードショーがある。最近では、フィギュアのほうが全盛でトレカのテーブルはだいぶ減った。当時はボックスだけを扱うテーブル、シングルカード、しかも地元のドジャースのカードだけを扱うテーブル、収集用品のサプライを扱う店、と勢ぞろいしていた。その中のひとつのテーブルで最後に売れ残っていた「UPPER DECK USA」を1ボックス、購入した。LLサイズのコーラを飲みながら、巨大な店主に「お前もユキ・サイト狙いか?」と聞かれた。「ユウキ・サイトウだ」と訂正したが通じたかどうかはわからない。
ドジャースタジアムで斎藤隆のバブルヘッドをゲットした試合はカブス戦で、斎藤隆が福留孝介に決勝打を浴びた。2日後にエンゼルスタジアムで、ジョン・ラッキーのバブルヘッドをゲットした試合はデビルレイズ戦で岩村明憲がヒットを打った。そして、4日後には再び、機内食のビビンパを食べていた。
帰国して、ボブルヘッドをながめながら、今回もいい弾丸ツアーだったな、などと自画自賛した後、例の「UPPER DECK USA」を開封。すると、何と、斎藤佑樹のサインカードが…。しかも、50枚限定でシリアルナンバーが、「eBay」で落札したものと連番だった。同じケースでシリアルナンバーが連番になることはあるが、こんな形で連番が手元にそろうなんて…。
バブルヘッドを収集していなかったら、あの日にカードショーに行かなかったら、知人に頼んで落札していなかったら…。今から15年前。カードとの出会い、人との出会いを痛感した斎藤佑樹の「連番」サインカードだった。
Cove(ライター)
国内外のコレクションアイテムを収集して30年余り。日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。日本人メジャーリーガーのカード収集も。保護猫の姉妹を引き取り在宅ワーク中。