MLBの若きスーパースター、フェルナンド・タティスJr内野手(サンディエゴ・パドレス)が8月12日、80試合の出場停止処分を受けた。筋力増強剤のステロイドに陽性反応が出たためで、白癬菌の治療薬にステロイドに関連するクロステボルが含まれていた、という。白癬菌はカビの一種で、一般的に水虫やいんきんたむしなどの皮膚感染症を引き起こす。
タティスはすぐにMLBが科した処分を受け入れ、声明を発表。「服用したものの中に禁止物質が含まれていないことを確認すべきでした。私の過ちを謝罪したい。弁解の余地はありませんし、私が愛するこのゲームをごまかしたり、軽んじたりするようなことは決してしない」とした。
23歳の二世選手は、抜群の身体能力で攻守でスーパープレーを見せてきた。メジャー3年目の昨季はナ・リーグの本塁打王にも輝いた。今季ここまでのドーピング検査では違反はなかったことから、昨季のタイトル獲得にクロステボルの影響はなかった、と思いたい。
ただ、印象が悪すぎる。やんちゃなイメージがあるタティスだが、これまでの離脱は、今年3月にバイク事故で左手首を骨折したため。昨年2月、13年総額3億4000万ドル(452億円)の延長契約を結んだ選手としては自覚不足と言われても仕方ない。
しかも、プレーオフ進出へ、ファン・ソト外野手やジョシュ・ヘイダー投手らの大物選手をトレードデッドライン寸前に獲得し、タティスJrの復帰で一気にプレーオフ進出、ワールドシリーズ進出を目指していた球団だけに裏切られたショックは大きい。「私たちは驚きとともに非常に落胆しています」というコメントも発表した。
衝撃はトレーディングカードの世界も襲った。タティスJrのTOPPSのルーキーカードは、ここ数年の世界的な投機ブームの中、ルーキーカードブーム高騰の火付け役にもなった。処分発表を受け、オークションをはじめ、暴落が始まった。イメージダウンとともに、来季の序盤まで試合に出場できず、露出が減ることがその理由だろう。トレカ市場は敏感でシビアである。
プロスペクト選手のルーキーカードには今回のようなリスクはつきものである。これまでもマーク・マグワイア内野手、バリー・ボンズ外野手らレジェンドでもステロイドを使用すれば、殿堂入りもできず、非難をうけてきた。だが、今後もタティスJRのトレカが暴落し続けるのか、はまだ、わからない、というのが実際のところなのではないだろうか。
アレックス・ロドリゲス内野手(ニューヨーク・ヤンキース)も1年以上の出場停止処分を受けた後、復活し、最後はヤンキースタジアムで大きな拍手を受けて引退。カードは今でも高い市場価格で取引されている。
「周囲は面白おかしく、大騒ぎしていますが、故意の薬物使用ではなさそうですし、トレカもタティスJrの場合は、今後の活躍次第にかかっているのではないでしょうか」とカードショップの関係者は言う。この関係者によると、タティスJrの立場は、NBAのザイオン・ウィリアムソン(ニューオリンズ・ペリカンズ)に似ている、という。ドラフト全米1位でNBA入りしたが故障が多く、プレーで期待を上回る活躍を見せているとは言い切れない。
「もちろん、ザイオンは薬物使用とは関係ありませんが、どんな復活を見せるか。しかも、中途半端なプレーでなく、チームのファイナル進出に貢献したり、圧倒的なプレーを見せるか。タティスJrも来季、グラウンドに戻ってきた時にワールドシリーズ制覇にパドレスを導くようなプレーを見せれば、カードの市場価格も戻ると思います」とこの関係者は予想した。
そういう意味では、市場価格が下がっている今は「買い時」という気もする。ただし、タティスJrのイメージからすると、また何か、やらかしてしまいそうな気もする。
米大手オークションハウス「Goldin Auctions」では、ホーナス・ワグナーの「T206」がトレカ史上最高額となる7,250,000ドル(約9億8000万円)で落札された。不景気で投機ブームに陰りが見えるとされる現在だが、価値の下がらない確実なものには投資が続いている。タティスJrのカードはもう終わった、などと決めつけず、今後の動向とともに追いかけなければならない。
Cove(ライター)
元スポーツ紙ライター。国内外のコレクションアイテムを収集して30年あまり。バブルヘッドのコレクションが自慢で日本唯一のバブルヘッドライター(自称)。トレカはレギュラカードのコンプリと日本人メジャーが中心。