前回は個性的なヘアスタイルのバブルたちをご紹介したが、今回の話題はひげである。最近では伸ばし放題のひげも当たり前になっているが、おしゃれ番長ならきちんと手入れをしたいものだ
伸ばした口ひげを油や蝋(ろう)で固めて、その左右を上へはね上げたスタイルを「カイゼルひげ」というらしい。いわゆる「魔法使いサリーちゃん」のパパである。1800年代のたばこカードに登場する選手によく見られる。1980年代まで「カイゼルひげ」の選手は生き残り、81年にはブルワーズの守護神、ローリー・フィンガース投手がサイ・ヤング賞とリーグMVPに輝いた。2005年にブルワーズが来場者に配布したのが「カイゼルひげ」が見事に描かれたバブルヘッドだ。ホームジャージとビジタージャージの2パターンがある。
殿堂入りも果たしたフィンガースはアスレチックス時代の72年にWシリーズMVPを受賞。2012年にはアスレチックスがバブルを作った。そのアスレチックスのひげのクローザーの系譜を受け継いだのが、デニス・エカーズリー投手。きちんとそろえられた口ヒゲにロン毛、長い足でマウンドに上がり、サイドスローでピンチを断つ姿がカッコよかった。92年にはファインガース同様、リーグMVPとサイ・ヤング賞を受賞。殿堂入りが発表された2004年にくわえ、2017年にもバブルヘッドが配布された。
ロン毛+口ひげに、さらにあごひげがプラスされたのがパイレーツ時代のアンドリュー・マカッチェン外野手。打撃タイトルはないが2013年にはMVPになるなど攻守走の三拍子がそろった外野手は多くのバブルヘッドが作られたが、18年にジャイアンツからシーズン途中でヤンキースに移籍すると、ロン毛とひげはきれいになくなっていた。昨季からフィリーズに移ると、それまで我慢していたおしゃれ魂が燃え上がったのか、ボーボーのあごひげになっていた。フィリーズではマカッチェンのバブルヘッドはまだ、ない。
伸ばし放題のあごひげは2013年のレッドソックスの選手たちから始まった。ジョニー・ゴームズ内野手が春季キャンプにひげ姿で現れ、マイク・ナポリ捕手らが真似ると、開幕ダッシュに成功。ゲン担ぎで、さらにひげ選手が増え、ファンまでも。マカッチェンが自慢のひげを剃ったほど厳しい規律の、宿敵・ヤンキースへの対抗心もあった、と言われ、レッドソックスは4年ぶりの世界一となった。2015年に配布されたナポリのバブルヘッドは本塁打をちダイヤモンドを一周する際のガッツポーズだ。ブルワーズのエリック・テームズ内野手、ドジャースのジャスティン・ターナー内野手もボーボーひげの代表選手だろう。
前回、紹介したリアルヘアのバブルヘッドに負けまいと、リアルひげもある。2014年のドジャースのブライアン・ウィルソン投手、2015年のロッキーズのチャーリー・ブラックモン外野手、同年のエンゼルスのマット・シュメーカー投手のひげは自宅で手入れをしたくなるリアルなひげである。
そのウィルソンはかつてジャイアンツに所属。2010年に抑えのウィルソンにバトンをつないだセットアッパーのセルジオ・ロモ投手もひげが特徴でふたりは「Beards(ビアーズ=ひげ野郎たち)」と呼ばれていた。2012年にジャイアンツが作ったロモのバブルヘッドはあごひげだが、あごの部分が剃られているユニークなひげを再現し、ポーズも決まっている。
昨季、ブレーブスが作ったSGAも面白い。ダンズビー・スワンソン内野手とチャーリー・カルバーソン外野手は同じようなひげのコンビ。このふたりを合体させた「スワンバーソン」は一石二鳥とも、二兎追うものは一兎も得ず、とも言えるバブルヘッド。スワンソンの濃いあごひげに対して、カルバーソンの薄いひげと濃淡まで区別した凝りようだが、それぞれのファンにとってはかなり微妙な感じだろう。
最後は、なかったはずのひげをたくわえた変装バブルヘッド。NPBのロッテでも監督を務めたボビー・バレンタイン監督は1999年に退場処分を受けたが、ベンチ裏で、つけひげで変装してベンチに復帰。審判団に見つかり、退席させられ罰金5000ドルを課せられた。なぜ、ベンチ裏につけひげがあったのかは謎だが、この変装をバブルヘッドにしてしまったのが、メッツ傘下のマイナー球団、ブルックリン・サイクロンズ。サイクロンズは以前、紹介したように、ピーター・アロンソ内野手の白クマバブルを配布するなど個性的なバブルを配布することでも知られるが、サングラスにつけひげのバレンタイン監督のバブルは秀逸すぎる。
このエピソードは9年後に再び、脚光を浴びることになるほど、有名な「事件」になった。18年、マリナーズのイチロー会長付き特別補佐が対ヤンキース戦でひげをつけパーカーのフードを被り隠れてベンチ入り。「イチローがかつてのバレンタインなみの変装で登場」と報道されてしまい、バレンタイン監督も「変装セットを送ろうと思ったが、完璧だったので必要ない」とコメント。やっぱり、メジャー・リーグも、バブルヘッドも楽しく、おしゃれなのである。
cove【ライター】
国内外のベースボールカードやコレクションアイテムを収集し続けて30年。元スポーツ紙ライター。